2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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おり,実際にこれらのPVAでは金属錯体を短時間で良好に分離できることがわかった。このPVAを含むDMSO泳動液を用い,5種の四核鉄ナノクラスター混合試料をNACGE分析したところ,分子量の差がわずか15の金属ナノクラスターまでを良好に分離できたことから,DMSO中に形成したPVAゲルがNACGE分析に有効であることが明らかとなった。 HPMCについてもPVAと同様のNACGE分離特性が観測され,ポリマー分子量やHPMCおよびLi+濃度が分離に及ぼす影響からもポアサイズ制御が可能であることが示唆された。また,このHPMC泳動液を用いることにより,グラジエント溶離の手法をNACGE分析に適用できることが明らかとなった。すなわち,キャピラリー内にHPMCとLi+を含むDMSO溶液を充填し,ポアサイズの小さなゲルマトリックスを形成させる。ここで検出側の泳動液バイアルにLi+の水素結合を阻害する有機酸アニオン (HI‒) の溶液を充填して電圧を印加すると,ゲルのポアサイズが広がり,速く泳動できるようになる。このグラジエント溶離を実証するために,3種標準単核金属錯体混合試料の分析を行った。Li+濃度が低い泳動液で通常のNACGE分析を行うと,+2価の錯体A, Bの分離は不十分であった(図2a)。Li+濃度を上げると,+2価の錯体A, Bは11分付近で完全分離されたのに対し,+1価の錯体Cは15分付近に検出され,錯体B‒Cの分離度が大きくなりすぎた(図2b)。錯体A, Bの分離を維持しながら錯体Cをより早く検出するために,グラジエント溶離の手法を適用したところ,Li+濃度が高い泳動液をキャピラリーに充填しているのにも関わらず,錯体Cが早く溶出し,錯体B‒C間の時間差を大きく短縮することが可能となった(図2c)。HI‒濃度を上げると,錯体B‒C間の時間差はさらに短縮された(図2d)ことから,HI‒はHPMCのOH基とLi+間の水素結合を断ち切り,ゲルのポアを広げるものと推測される。 HPMCを用いたNACGEを5種の四核鉄ナノクラスター混合試料の分析に応用した。HPMCを含まないDMSO泳動液を用いて通常のNACE分析を行ったところ,5本のピークが観測されたものの,分子量の差が小さいクラスター3, 4, 5の分離は悪かった(図3a)。一方,HPMCを含むDMSO泳動液を用いると,すべてのピーク間で完全分離を達成した(図3b)。分離度を算出すると,HPMCを用いるNACGE分析により,分離度はおよそ2倍になっていることがわかった。以上より,DMSO中に形成したHPMCゲルが金属ナノクラスターのNACGE分析に有効であることが確認された。 図2. NACGE分析におけるグラジエント溶離の効果 図3. 四核鉄クラスターの(a) NACE, (b) NACGE分析 3. 今後の展開 本研究で開発したNACGE分離系は,有機溶媒中におけるリチウムイオンとポリマー間に働く水素結合を利用した網目構造の形成によるシービングゲルマトリクスに基づいており,構造の極めて似た四核鉄ナノクラスターの分離にも成功したことから,泳動時間からの分子量の見積もりへの応用も可能になると考えられる。広汎な金属ナノクラスター触媒の実用化にあたっては,純度決定法も含めた分析手法の開発が不可欠であるが,本手法は特に水に不安定で構造の極めて類似した多核錯体の新規分離分析技術としての発展が期待される。さらに,本研究で実証したNACGE系におけるグラジエント溶離は高性能な分離を実現できるものであり,キャピラリー内のインラインゲル形成などへの応用も期待できる。 4. 参考文献 [1] B. Scrosati and C.A. Vincent, 2000. MRS Bull., 25: 28–30. [2] S. Mizrahi, J. Gun, Z.G. Kipervaser and O. Lev, 2004. Anal. Chem., 76: 5399–5404. [3] J. Chatterjee, T. Liu, B. Wang and J. P. Zheng, 2010: Solid State Ion.. 181: 531–535.−89−

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