2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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金属ナノクラスター類のサイズ分析法の開発 弘前大学大学院理工学研究科 准教授 北川 文彦 1. 研究の目的と背景 金属ナノクラスターは,分子とは異なる機能の発現がみられることから,触媒などへ応用されており,様々な種類のクラスターが合成されている。しかしながら,これらの金属クラスター類の研究の進展に比べて,その分離・精製法の開発は明らかに遅れており,その確立が急がれている。金属クラスター類は極めて構造が類似した不純物を含むことが多く,最も標準的な分析手法である液体クロマトグラフィーでは分離能が不十分であることが指摘されている。そこで,分離能がより高いキャピラリー電気泳動 (CE) を適用することで,様々な金属クラスター類の分離分析技術の確立を目指した。金属クラスター類は水に不安定な化合物が多く,分離溶液に水を用いる通常のCEは適用できないうえに,分子サイズも大きいため,非水系溶媒を用いるCE (NACE) とキャピラリーゲル電気泳動 (CGE) を組み合わせた非水系キャピラリーゲル電気泳動 (NACGE) の適用について検討を行った。この目的にあたり,有機溶媒中で形成するゲル(オルガノゲル[1])に着目し,ポリマー構造の選択およびゲル調製条件の最適化によるオルガノゲルのポアサイズ制御について検討を行い,分離に及ぼす影響を調査した上で,金属ナノクラスターのNACGE分析へ応用した。 これまでにNACEにCGEを適用した例[2]はほとんどないことから,泳動液とする溶媒やポリマーの検討が重要となる。金属錯体のNACGE分析に適した泳動液を検討し,有機溶媒中でリチウムイオンを添加すると水素結合を介してゲル化することが報告[3]されているpoly(vinyl alcohol) (PVA) および粘性が低くDNAのゲル電気泳動分析に用いられているhydroxypropyl methylcellulose (HPMC) をポリマーとして主に用いた。また,溶媒として,ポリマーの溶解度が高いdimethyl sulfoxide (DMSO) を用いた。本研究ではポリマーの分子量・けん化度・濃度ならびにLi+濃度が分離に与える影響を検討した。 2. 研究内容 分離には全長50 cm,有効長39 cm,内径75 μmのフューズドシリカキャピラリー素管を用いた。泳動液にはPVAおよびHPMC をLi+を含むDMSOに溶解したポリマー溶液を用いた。泳動液でキャピラリーを平衡化した後,試料溶液を電気的に注入し,印加電圧 +20 kV,UV検出にてNACGE分析を行った。試料としては,3種の標準単核金属錯体(分子量570~657)および5種の四核鉄ナノクラスター(分子量592~772)を用いた。 はじめに泳動液として種々のポリマーを溶解したDMSO溶液を用いたNACGEの比較を行った。2種の標準単核金属錯体A, Bの混合試料を用いて分離を行ったところ,PVAとHPMCでは泳動時間が遅く,完全分離が達成されたのに対し,2-hydroxyethyl cellulose (HEC) とpoly(ethylene oxide) (PEO) では分子量がより大きいのに関わらず,試料は速く泳動し,分離も不十分であった(図1)。これは,DMSO中においてPVAおよびHPMCはLiイオンを介してポリマー鎖が効率よく絡み合って網目構造を形成したために,より遅い泳動時間および高い分離度を示したのに対し,HECとPEOでは絡み合いの効率が悪いことに起因するものと考えられる。したがって,PVAおよびHPMCがNACGE分析において,有用なポリマーであることが明らかとなった。 種々の分子量・濃度・けん化度のPVA泳動液を用いた際の標準単核金属錯体Aの泳動時間をPVA濃度に対してプロットしたところ,おおむね正比例の関係が得られたが,特定のけん化度および分子量のPVAに関しては,この直線から上側に逸脱した。これは低いPVA濃度でもポアの小さな網目構造を形成していることを示唆して 図1. 標準単核金属錯体のNACGE分析 −88−発表番号 43〔中間発表〕

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