2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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2.2.枝状サンゴ骨格を利用した人工骨の創製2.2.1.実験方法枝状サンゴ骨格の主成分が純度の高い炭酸カルシウムの多孔質体であることから,サンゴ由来の人工骨材料の創製を試みた.医療用の人工骨材料としては,HAp(Hydroxyapatite)を用いて均一な多孔質体が創製できれば有用であるが,工業的にこのような均一な多孔質材料を人工的に創製することは難しい.そこで本研究では,サンゴ骨格にリン酸処理を施すことによって,サンゴ骨格の主成分をHApに置換する手法について検討した.2.2.2.実験結果および考察まずは,サンゴ骨格を細かな粉末状に加工した後でタブレット状の焼結体を作成し,緻密体のサンゴ由来のHAp創製を試みた.HApの焼結温度は900~1300℃であるので,まずは1300℃,5hで常圧焼結を行った.焼結後10日間放置したところ,作成したタブレットは自然に粉々となった.この理由を調査するため,500℃,600℃,700℃加熱時のサンゴの結晶構造変化をX線回折法によって調査した結果を図3に示す.サンゴ骨格の主成分はアラゴナイト構造を有する炭酸カルシウム(CaCO3)であるが,500℃まで加熱するとカルサイト構造へ変化し,さらに600℃を超える温度まで加熱すると,炭酸脱離によって酸化カルシウム(CaO)が生じる.この炭酸カルシウムが大気中の水分と吸水反応を起こす際に粒子が膨張し,自然崩壊を生じたと考えられる.この結果,単純な焼結では人工骨が創製できないことが分かった.図3温度上昇に伴う結晶構造の変化続いて,リン酸処理を用いて,サンゴ骨格からHApの化学合成を試みた.まず,サンゴ骨格そのものを1100℃5hで加熱処理し,サンゴ由来の酸化カルシウム(CaO)を作成する.その後,ある条件でリン酸カリウム水溶液に浸漬することで,サンゴ由来のHApの生成を試みた.このときの結晶構造の変化を図4に示す.サンゴ骨格のアラゴナイト構造から炭酸カルシウムを経て,完全なHApへと変化していく様子が分かる.最終構造では酸化カルシウムを含まなくなり,吸水反応による崩壊は防止できる.この人工骨の生体活性骨機能を評価するため,疑似生体液への浸漬試験を行ったところ,試験片表面には既存のHApと同等のアパタイト形成を確認することができた.図4リン酸処理に伴う結晶構造の変化3.今後の展開3.1育成環境と骨格折損挙動の相関性調査今後は野外で育成したトゲスギミドリイシの折損挙動を評価し,本研究で得られた知見の妥当性を検討するとともに,生育環境とサンゴの生育環境との関連性を調査する必要がある.しかし,自然保護の観点からなるべく少ないサンプルで強度評価が実施できることが望ましいため,材料強度試験で一般的に使用される「硬さ」に注目し,硬さと折損挙動との相関性から検討する.3.2枝状サンゴ骨格を利用した人工骨の創製本研究では,枝サンゴ骨格由来のハイドロキシアパタイトの多孔質体を創製し,十分な生体活性骨機能があることを明らかとした.実際の生体骨では,表面が緻密で内部が多孔質となっていることから,これと同様の構造を有するサンゴ骨格由来の人工骨材を創製できれば,医学的に非常に有用な材料となりうる.今後は,このような生体骨と同等の特性を持つサンゴ骨格由来の人工骨材の創製を試みる.4.参考文献[1]西平守孝,J.E.N.Veron.日本の造礁サンゴ類.1995.海游舎.[2]本川達雄.サンゴとサンゴ礁のはなし―南の海のふしぎな生態系.2008.中央公論新社.[3]JISR1664(2004).[4]JISR1601(2008).5.連絡先沖縄県名護市辺野古905、masaki-k@okinawa-ct.ac.jp−85−

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