2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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材料強度学と生物学の融合による枝状サンゴの外乱に適応した骨格形成と折損挙動の解明沖縄工業高等専門学校機械システム工学科准教授政木清孝1.研究の目的と背景サンゴのなかでも枝状に骨格を形成する枝状サンゴは,三次元の複雑な骨格構造を持つことで大小様々な生物に棲み場所を提供し,海洋生態系の基盤となっている1.サンゴの骨格は,光や波などの生育環境の影響を受けながら成長し,波浪などの外的要因により折損する事がある2.しかし,たとえ折損したとしても,ある程度の大きさを維持していれば,他の場所で定着することも可能であり,生育領域拡大の一助ともなっている.しかし,枝状サンゴ骨格の折損挙動は,ほとんど解明されていない.本研究ではこのような状況を鑑みて,枝状サンゴの「トゲスギミドリイシ(Acroporaintermedia)」の骨格を研究対象とし,材料強度学研究者の立場から枝状サンゴの骨格折損挙動を調査した.その評価の際にはサンゴ生態の研究者と協働し,生物学的課題である折損挙動と生育環境との相関を明らかにしようとする異分野融合型の研究を計画した.また,サンゴ骨格が炭酸カルシウムの多孔質体であることに着目し,白化死滅した枝状サンゴ骨格の工業的利用を目的として,生体材料の研究者とも協働し,サンゴ由来の人工骨の創製も試みた.2.研究内容2.1.育成環境と骨格折損挙動の相関性調査2.1.1.実験方法サンゴ骨格の折損強度を調査するにあたり,日本工業規格JISに準拠して実施することとした.サンゴ骨格の主成分がアラゴナイト構造を有する炭酸カルシウム(CaCO3)であることから,当初は曲げ強度の調査にはJISR1664「ファインセラミックス多孔体の曲げ強さ試験方法3」が相応しいと考えられた.しかし,本規格は枝サンゴ骨格に対して比較的大型の試験片寸法を規定しているため,より小型の試験片寸法を規定しているJISR1601「ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法4」に準拠することとした.サンプルは,自然保護の観点から沖縄美ら海水族館の屋上水槽で飼育されている群体を利用し,枝の先端位置および根元位置から,それぞれの位置における群体の表面側と中心側に向いた位置から試験片を採取した.試験片総数は48個である.2.1.2.実験結果および考察図1は同一の枝から先端側より採取した試験片と,根元側から採取した試験片の強度比較を行った結果である.(a)に示すように,枝の中でも枝の根元側から採取した試験片のほうが強度が高く,壊れにくいことが分かった.内部構造をX線CTで調査したところ,(b)に示すように縦断面,横断面ともに根元側の内部構造が密となっていた.枝サンゴは根元側の骨格密度を高めることによって,外力による大きな折損を防いでいると考えられる.図1枝サンゴの先端側と根元側の比較図2は外力を群体中心側へ受けた場合の折損強度と,群体表面側へ受けた場合の折損強度を比較した結果である.枝の折れやすい方向は,(a)に示したように外力を群体の外側へ受けた場合であることがわかった.破断した試験片の破面における空孔の量を調査し,ワイブル確率紙上にプロットしたところ,(b)に示すように群体中心側に位置する試験片の方が表面側より多くの空孔が存在していることがわかった.セラミックスの曲げ強度は,引張荷重を受ける部位の欠陥の影響を受けやすいため,空孔の多い群体中心側が引張側荷重となる外力を受けた場合の方が折れやすい結果になったと考えられる.図2群体中心側方向と外側方向との折れやすさの比較510500.11510959999.9Porosity,%20406080CumulativeprobabilityF(t),%mFront6.59Back4.52群体表面側群体中心側F(meanrank)(a)外力方向と壊れやすさ(b)(b)17%83%中心側へ外側へ先端根元群体表面側群体中心側群体表面側群体中心側5mm(a)先端(b)根元33%67%(b)部位と壊れにくさ−84−発表番号 41〔中間発表〕

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