2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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遺伝子治療を指向した化学と生命科学の融合による細胞内RNA上のシトシンをウラシルへ変換する手法論の開発 北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 教授 藤本 健造 1. 研究の目的と背景 高等生物はRNAエディティングと呼ばれる転写されたRNAを塩基配列選択的に脱アミノ化する事で遺伝コードを変換する機構を有する。アデニンの6位を脱アミノ化することによりイノシン(I)となり、シトシンの4位を脱アミノ化することでウラシル(U)となる。従って、この反応を用いる事により、TからCへの変異に伴う疾患の治療が可能となる。近年、申請者らは3-シアノビニルカルバゾール(CNVK)を用いた光化学的クロスリンク法(1)を開発しており、部位特異的なシトシンの脱アミノ化に成功している(2)。しかし、90°Cで2時間以上の加熱が必要であること、可逆的光操作に用いる照射波長が366 nm, 312 nmと紫外領域であることから、細胞内応用を妨げるボトルネックとなっていた。そこで、本研究では、細胞内でのRNA光編集に向けて、脱アミノ化をより緩和な整理条件下で進行させるため、デアミナーゼ酵素内の反応機構を化学的に組み込ませる新たな分子システム系を設計・創成しようと考えた。 図1 光応答性人工核酸によるシトシンからウラシルへの変換 2. 研究内容 細胞内応用の障害となっている脱アミノ化反応における条件を緩和するため、シトシンからウラシルへ変換する際のシトシンからウラシルへ変換する際のシトシンの対合塩基の影響を調べた。シトシンの対合塩基がグアニン(G)、イノシン(I)、2-アミノプリン(P)、ネブラリン(N)などを用いてシトシンからウラシルへの変換効率を評価した。その結果、37 °Cという生体条件下においてイノシンを用いた場合に72時間で40%近くのシトシンがウラシルへと変換されていた。これはグアニンの10倍という大幅な効率化に成功した(図2)。また、イノシン、グアニン、2-アミノプリンの順に反応性が高い事を見出した3。 図2 脱アミノ化反応におけるシトシン対合塩基の影響 (A)DNA二本鎖中での脱アミノ化反応 (B)各塩基の化学構造 (C)シトシンからウラシルへの変換率 次に、デアミナーゼによるシトシンからウラシルへの変換機構を参考に新規光応答性人工核酸を用いた光化学的なシトシンからウラシルへの変換を検証した。デアミナーゼ活性就寝は親水性の置換基、とくにカルボキシル基がじゅうようであり、水分子を呼び込みシトシンの4位のアミノ化がケトン基に変わる事でウラシルへと変換している。そこで、カルボキシル基を有するカルボキシルビニルカルバゾール(OHVK)とともに極性の異なるカルボニルアミドビニルカルバゾール(NH2VK)、メトキシカルボニルビニルカルバゾール(OMeVK)を含むDNA鎖を合成し、シトシンからウラシルへの変換効率を評価した。その結果、70°Cで脱アミノ化反応を行った際に、CNVKは4時間で51%程度反応が進行していたのに対して、カルボキシル基を有するOHVKを用いた場合には、4時間で70%程度反応が進行しており、OHVK、CNVK、NH2VK、OMeVKの順で反応性が高いことを見出した(図3)。また、極性を評価する指標である分配係数(LogP)を調べたところ、OHVKを含むDNA鎖が最も親水的であることから、水分子が標的となるシトシンの近傍に来る親水的な置換基を有する光応答性人工核酸の効率的に脱アミノ化 −82−発表番号 40〔中間発表〕

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