2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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合成化学とゲノム医科学の融合によるがん由来遊離メチル化DNA回収のための機能性核酸修飾担体の開発 東京大学先端科学技術研究センター 教授 岡本 晃充 1. 研究の目的と背景 がん患者の末梢血には健常人よりも高濃度の細胞遊離DNA(cfDNA) が存在し、腫瘍マーカーになる。腫瘍の分子ステージ情報を与えるcfDNAメチル化を検出対象にして、液体生検によるがん診断法を確立すべきである。しかし、さまざまなcfDNAが混合した血漿から特定のメチル化cfDNAを選択的・高効率に回収することが困難であった。 本研究者は、これまでに配列特異的メチル化検出化学プローブ「ICONプローブ」を独自に創出し、簡便な混合だけで捕捉・標識することを可能にした(図1)。これをビーズなどの核酸と親和性のある担体と結合させることによって、メチル化cfDNAの回収が劇的に簡便になるかもしれない。本研究では、cfDNA混合液から任意のメチル化cfDNAだけを効率的に回収することを可能にする、化学プローブ修飾ビーズの開発を推進する。 図1 ICONプローブ 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 2-1. ビーズ接続可能なICONプローブの合成 ICONプローブの配列は、肝臓がん組織に対するメチローム解析結果を基に、肝臓がん患者特異的なメチル化が観察された配列からそれらに相補的な配列5か所を選んだ。プローブの長さについてまずは標的DNAを捕捉するのに十分な50塩基長とし、プローブのおよそ中央部の辺りにICONプローブの反応性塩基B、また3’末端にはビオチンを導入したICONプローブ5種類を作成した。例:5’-AGCTGTGGCC GCAGGGCAGC GTGGC_B_GGCC AGTCCAGCAG CCCCTGGCAG- biotin-3’ 2-2. ビーズへのICONプローブの接続 ビーズにICONプローブを接続する方法として、アビジン―ビオチン結合の利用を採用した。アビジンコーティングマグネチックビーズ(粒径50 µm)を用意し、ビオチンを導入したICONプローブの溶液と混合することにより、ビーズ上へのICONプローブを接続することができた。接続は、2-4の実験の結果により確認された。 また、ビーズとプローブの間の接続部分は、加熱条件(70℃まで)に堪えられることが確認された。 2-3. 反応容器の用意 ビーズ上での効率的な反応を志向して、ポリプロピレン素材の反応容器を準備した。この反応容器は、水に強く、上下に配管との接続口を有し、同時に任意に開封できる。接続口は、ビーズを通さないサイズのフィルター(20 µmメッシュ)でふさがれた。 2-4. メチル化DNAの選択的な捕捉 ICONプローブビーズを用いたメチル化DNA捕捉のための実験は次のように進められた。 ICONプローブ担持ビーズを封入した反応容器へ(蛍光修飾)標的DNAを注入してハイブリダイゼーションさせた後、洗浄液で洗浄した。続いて、オスミウム酸カリウムを含む反応溶液を注入し、一定時間の反応の後、洗浄液で洗浄した。未反応のDNAおよび非特異的吸着したDNAを除くためにホルムアミド水溶液を注入し、一定時間の反応の後、洗浄液で洗浄した。蛍光修飾標的DNAを用いた場合には、ビーズを反応容器から取り出して、それらの蛍光を蛍光顕微鏡で観察した。 実験の結果、メチル化DNAを選択的に捕捉できていることを確認できた(ビーズなしでは80%以上捕捉できていることをゲル電気泳動で定量)。蛍光顕微鏡での観察により、メチル化DNAは捕捉され(明瞭な蛍光の観察)、非メチル化DNAは捕捉されない(蛍光が現れない)ことが確認された(図2)。ビーズ上のプローブがオスミウム錯体形成反応を通じて明確にメチル化DNAのみを捕捉することができた。 −78−発表番号 38〔中間発表〕

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