2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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酸化物ナノワイヤの多彩な酸化還元反応とメモリスタ物性に基づいた革新的生体モニタリング科学技術の創成 九州大学 先導物質化学研究所 教授 柳田 剛 1. 研究の目的と背景 生体に関わる情報を“ビッグデータ”として高感度かつ長期間に渡って電気的に検知・保持し、生命維持活動と関連付ける新しい化学技術が注目を集めている。この電気的生体モニタリング技術において重要であると認識されているのが、“センシング感度”と“保持特性”であり、高感度に生体情報を電流値変化としてセンシングし且つその感度を長期間にわたって保持することが“ビッグデータ”として本質的に要求される。しかしながら、従来技術では高感度センサはその感度を長期間に渡って保持することが生体モニタリングのような劣悪な環境では難しく、両特性を併せ持つ新しいロバストな電流検知型生体モニタリングセンサが強く求められている。本提案課題では、生体モニタリングセンサにおけるこの最も本質的な問題に挑戦する。本研究では、上記生体モニタリングセンサ素子の最も本質的な問題点を、単結晶酸化物ナノワイヤのメモリスタ物性と多彩な酸化還元反応を活用する革新的なセンシングメカニズムにより解決する。具体的には、A)極微スケールの単結晶酸化物ナノワイヤが有する大きな比表面積と多彩な酸化還元反応を活用して雰囲気環境との相互作用に伴う極めて大きな電気抵抗変化(センシング感度)を生み出し、B)ナノワイヤ素子で発現する電界誘起抗変化-メモリスタ-が、雰囲気との熱力学的相互作用を介して経時劣化するセンシング感度をメモリスタ動作により初期の高感度状態に簡便に復帰させる(保持特性)ことを可能にする。従来科学技術と比較した本研究の特徴は、自己組織化現象を利用して形成される数ナノメートルの単結晶酸化物ナノワイヤの巨大な比表面積、多彩な酸化還元反応とナノワイヤのメモリスタ特性を生体情報センシング技術に展開する点にある。劣悪な使用環境における生体モニタリングセンサにおいて最も本質的な問題である、“センシング感度”と“超保持特性”を兼ね備えた新しい生体モニタリングセンサの実現をナノワイヤメモリスタという極めて革新的なコンセプトで可能にすることが本研究課題の特徴である。単結晶酸化物ナノワイヤ表面・界面における外界と電子移動を介した酸化還元反応及び電子状態に関する材料科学上重要な学術的な知見が得られると期待される。 近年、人の呼気成分と疾病との関連性が解明されつつあり、非侵襲の新しい健康診断法である呼気診断へ向けたセンサデバイスの開発が現在世界中で展開されている。呼気中に数多く存在する揮発性有機化合物(VOCs)を電気的に検出・識別するセンシング技術の開発が呼気診断実現の鍵となるが、一般に呼気中の疾病マーカー分子のVOCs濃度は極めて低く(数~数百ppbオーダー)、マーカー分子と構造・化学的特性が極めて類似した分子群が存在するため、センサデバイスを用いて疾病マーカー分子のみを選択的に検出・識別することは極めて困難であった。本研究では、表面有機修飾された自己組織化酸化物ナノワイヤ電界効果トランジスタ(FET)センサにおける選択的分子濃縮効果、及び表面準位変調効果を利用した全く新しいセンシング原理により、肺がんマーカーであるノナナ―ルの選択的・超高感度検出に成功したので報告する。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 水熱合成法により作製した酸化亜鉛(ZnO)ナノワイヤを用いて、単一ナノワイヤFETセンサ素子を電子線描画により構築した。次いで、ナノワイヤセンサ表面上に自己組織化単分子膜(SAM)修飾を行った。各種温度条件においてノナナ―ル、ヘキサナール、プロパナ―ル、アセトアルデヒド、アセトンに対するセンシング特性を評価した。作製したナノワイヤ及びセンサ素子の形状、結晶構造、分子吸着状態、ターゲット分子吸着量、表面欠陥状態をFESEM、XRD、TEM、FTIR、GC-MS、PLによりそれぞれ評価した。 ODPA修飾されたZnOナノワイヤFETセンサのノナナ―ルセンシング(250ppb)において、3桁以上もの巨大な電気抵抗変化が観測された。GC-MSを用いたノナナ―ル吸着量評価、ノナナ―ル吸着前後におけるFETの伝達特性及びPL強度の変化から、上記の巨大電気抵抗 −76−発表番号 37〔中間発表〕

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