2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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結果と考察 CYP79B2/ CYP79B3の下流にある抗菌物質経路のうち、すでにシロイヌナズナのファイトアレキシンであるカマレキシンは侵入後抵抗性に関与することを報告している[4]。今回、カルボン酸と4-ヒドロキシインドール-3-カルボニルニトリル(4-OH-ICN)に注目した。まず、4-OH-ICNの合成に関与するCYP82C2遺伝子とPEN2遺伝子の二重変異体にクワ炭疽病菌を接種した結果、侵入後抵抗性は維持されており、この結果は4-OH-ICNは侵入後抵抗性には必須ではないと推定された。次にカマレキシンとカルボン酸の合成が低下しているpen2 cyp71A12 cyp71A13三重変異体について調査した結果、カマレキシンのみの合成に欠損を示すpen2 pad3変異体よりも侵入後抵抗性の崩壊頻度が上がっており、このことより、カルボン酸が侵入後抵抗性において重要な役割を担っていることが強く示唆された。しかし、同時にpen2 cyp71A12 cyp71A13変異体ではcyp979B2 cyp979B3変異体と比べて、なお抵抗性は保持されており、、未同定の抗菌経路の存在が示唆された。 図2.シロイヌナズナのトリプトファン関連抗菌経路変異体における侵入後抵抗性の崩壊頻度 3. 今後の展開 本研究によって、クワ炭疽病菌に対する侵入抵抗性の発動には病原菌認識受容体が関わることが示唆された。BIK1については病原菌認識によって誘導される活性酸素生成において重要な役割を担っていることが報告されているが、しかし、クワ炭疽病菌への侵入抵抗性には活性酸素生成は必須ではないことが示唆されている。今後、BIK1が制御するどのような経路が本抵抗性に関与するのか研究をすすめていく予定である。また、CLF遺伝子が侵入抵抗性に関わる新規の因子として同定されたが、どのような役割を担っているのか不明であり、今後さらに解析をおこなっていきたい。また、本研究により炭疽病菌を認識するシロイヌナズナの受容体が存在することが強く示唆されたので、今後、炭疽病菌の持つどのような因子がPAMP(pathogen -associated molecular pattern: 病原体関連分子パターン)として、シロイヌナズナに認識されているか、研究していく予定である[5]。また、クワ炭疽病菌の侵入様式は植物上の糖の量によって変化することを以前に報告しているが[2]、最近になり糖トランスポーターが植物免疫に関与することを見出しており[6]、今後、糖の輸送と植物の防御機構の関連についてもさらに研究を進めていきたい。 侵入後抵抗性についてはカルボン酸の合成経路が重要な役割を担っていることが本研究により示唆された。すでに菌の侵入後にこの2次代謝産物経路の生合成酵素遺伝子が転写レベルで活性化することを見出しており、今後、クワ炭疽病菌の侵入がどのように転写誘導を引き起こしているのか、その分子機構を研究していく予定である。 4. 参考文献 [1] Shimada C, Lipka V, O'Connell R, Okuno T, Schulze-Lefert P, and Takano Y. Molecular Plant-Microbe Interactions 19: 270-279 (2006). [2] Hiruma K, Onozawa-Komori M, Takahashi F, Asakura M, Bednarek P, Okuno T, Schulze-Lefert P, and Takano, Y. Plant Cell 22: 2429-2443 (2010). [3] Hiruma K, Nishiuchi T, Kato T, Bednarek P, Okuno T, Schulze-Lefert P, and Takano Y. Plant Journal 67: 980-992 (2011). [4] Hiruma K, Fukunaga S, Bednarek P, Pislewska-Bednarek M, Watanabe S, Narusaka Y, Shirasu K, and Takano Y. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110: 9589-9594 (2013). [5] Fukunaga S, Sogame M, Hata M, Singkaravanit-Ogawa S, Piślewska-Bednarek M, Onozawa-Komori M, Nishiuchi T, Hiruma K, Saitoh H, Terauchi R, Kitakura S, Inoue Y, Bednarek P, Schulze-Lefert P, and Takano Y. Plant Journal 89:381-393 (2017). [6] Yamada K, Saijo Y, Nakagami H, and Takano Y. Science 354:1427-1430 (2016). 5. 連絡先 高野義孝 京都大学農学研究科植物病理学分野 606-8502 京都市左京区北白川追分町 電話番号: 075-753-6131 E-mail: ytakano@kais.kyoto-u.ac.jp−71−

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