2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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植物と病原糸状菌の相互作用により段階的に起動する多層型植物防御システム 京都大学大学院農学研究科教授 高野義孝 1. 研究の目的と背景 植物は自身を宿主とする病原糸状菌(適応型菌)によって致命的なダメージを被る一方、自身を宿主としない病原糸状菌(不適応型菌)に対しては強力な防御を発揮する。このような抵抗性は非宿主抵抗性と呼ばれる。我々は、この頑強な植物防御システムの分子機構解明に挑戦しており、これまでにモデル植物シロイヌナズナが、不適応型菌の侵入を阻止するために必要とする抗菌経路を同定している[1-3]。さらに、この侵入を阻止する抵抗性(侵入抵抗性)が突破され、不適応型菌が侵入した場合、シロイヌナズナは第2層目の防御を新たに活性化させ、菌の進展を抑止することを明らかにしている[4]。本研究では、この病原糸状菌との相互作用状況に応じて段階的に活性化する多層型植物防御システムの分子機構のアウトライン解明を目標とし、以下の2つの課題を設定し研究をおこなった。 2. 研究内容 課題1. 不適応型菌に対する侵入抵抗性の分子機構解析: 不適応型菌(クワ炭疽病菌)の侵入を阻止するシロイヌナズナ防御経路として、EDR1あるいはPEN2が関与する抗菌経路を同定している[2, 3]。しかし、この侵入抵抗性の分子機構の解明は途上の段階である。本研究では、第一に病原体認識に必要なタンパク質複合体の因子が、クワ炭疽病菌の侵入抵抗性に貢献しているかを調査した。第二に侵入抵抗性に関与する新規の因子を探索するために、クワ炭疽病菌の侵入を許すシロイヌナズナ変異体をEMS変異集団に対してスクリーニングした。 図1. クワ炭疽病菌への抵抗性が欠損したシロイヌナズナ変異体 結果と考察 病原体認識に必要なタンパク質複合体の因子として、細胞外にロイシンリッチリピートをもつ受容体型キナーゼBAK1、受容体型細胞質タンパク質キナーゼBIK1などが知られているが、それらの変異体においてクワ炭疽病菌への侵入抵抗性が保持されているかを調査した。その結果、bik1変異体において、クワ炭疽病菌への侵入抵抗性の低下が見いだされ、BIK1が本不適応菌の侵入抵抗性に関与することが判明した。一方、bak1-4変異体においては、そのような抵抗性の低下は観察されず、BAK1が欠損しても、侵入抵抗性は維持されると推定された。しかし、一方で、bak1-5変異体においては、本抵抗性の低下が観察された。このbak1-5変異は、BAK1に加えて、BAK1ホモログの機能も阻害することが知られているので、この結果は、BAK1とBAK1ホモログの機能が同時に阻害されると、クワ炭疽病菌への侵入抵抗性が低下することを示唆した。これらの結果より、病原体認識に必要なタンパク質複合体が、不適応菌の侵入を阻止するために必要であることが明らかとなった。一方、クワ炭疽病菌の侵入を許す変異体についてEMS変異集団に対してスクリーニングした結果、クワ炭疽病菌が侵入する複数の変異体の発見に成功した。発見した変異体の原因遺伝子について調査した結果、既知のPEN2遺伝子などに加えて、Polycomb遺伝子群に属するCLF(CURLY LEAF)遺伝子が原因遺伝子として新たに同定された。 課題2. 病原菌侵入によって新たに活性化する抵抗性に必要な抗菌経路の特定: 上記のように病原菌侵入により、第2層目の防御がシロイヌナズナにおいて活性化する。本抵抗性は侵入後抵抗性と呼ばれ、植物の自発的細胞死をともなう。これまでにpen2変異体およびedr1変異体では、クワ炭疽病菌は侵入するが、この侵入後抵抗性により、その進展は完全に封じされることが明らかとなっている[4]。一方で、cyp79b2 cyp79b3二重変異体においては、クワ炭疽病菌は侵入し、さらに侵入菌糸を進展し、この変異体を枯死させる[4]。つまり、本二重変異体では、侵入後抵抗性も崩壊している。本変異体ではトリプトファンがindole-3-acetaldoximeに変換されず、結果的にトリプトファン由来の複数の抗菌物質の合成ができない。本研究では、このトリプトファン由来のどの抗菌物質合成経路が侵入後抵抗性に関与するかについて解析した。 −70−発表番号 34〔中間発表〕

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