2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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の短日、「16時間明期、8時間暗期」と「8時間明期、16時間暗期」を3ヵ月ごとに移動させる日長シフトの3条件を用いた。これらの条件を組み合わせて、高温・長日、温度シフト・長日、温度シフト・日長シフト、温度シフト・短日、低温・日長シフト、低温・長日の6つの栽培条件で実験を行った(図2)。その結果、低温条件で栽培した場合に最も早く開花した(図2E、F)。次に開花するのは、温度シフト条件で栽培した場合であり(図2B-D)、高温条件では開花しなかった(図2A)。高温条件の植物を低温に移すと開花が生じた。いずれの条件でも、低温に移して約3ヵ月後に開花した。一方で、日長条件の違いは開花の時期に影響を与えなかった。以上の結果から、コダチスズムシソウの6年間を測る生物時計において、気温が重要な環境シグナルであり、低温で開花が早まることが明らかとなった。また、花芽の形成にも低温が重要であることも示唆された。一方で、日長は環境シグナルとして重要でないことが示唆された。 開花年と繁殖回数に関するQTL解析を行うにあたり、コダチスズムシソウと近縁種で毎年開花する複数回繁殖の多年草オキナワスズムシソウS. tashiroi(図1C)のF2雑種を作成した。 F2雑種の各個体について、初めて開花した年、開花後に枯死するかどうか(一回繁殖型)を記録し、フェノタイピングを進めた。現在生存している個体のうち、101個体はすでに開花済みであるが、60個体は未開花である。また、開花済みの個体のうち、7個体は開花後に枯死したが、残りの94個体は生存しており、一部の個体は繰り返し開花している。F2雑種のジェノタイピングはRAD-seqにより行い、連鎖地図作成のため、現在解析を進めている。 図2気温と日長を制御した栽培実験。(A)高温、長日。(B)気温シフト、長日。(C)気温シフト、日長シフト。(D)気温シフト、短日。(E)低温、日長シフト。(F)低温、長日。赤矢印は野外での一斉開花。 周期遺伝子の探索を行うため、コダチスズムシソウの発芽から開花までの遺伝子発現変動を検証した。発芽年の異なるコダチスズムシソウを栽培し、定期的にサンプリングを行うことで、できるだけ発芽から開花までの全てのステージを網羅したサンプルを収集した。代表サンプルに関して、RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析を行った。これまでに、シロイヌナズナの花成関連遺伝子のホモログが635個検出された。現在、遺伝子の発現変動パターンから、周期遺伝子の検出を進めている。また、リファレンスゲノムを作成するため、PacBioRSIIにより、ロングリードのゲノム情報の取得を試みた。これまでに、トータル12.7Gbpの配列情報が得られた。また、SubreadのN50は10,672bpであった。現在、このデータをもとにアセンブル作業を進めている。 3. 今後の展開 栽培実験から、コダチスズムシソウの生物時計は低温でより早く進むことが示唆された。今後は、気温に閾値があるのかどうか、冬の回数を数えているのかなど、具体的なメカニズムにせまっていきたいと考えている。また、F2雑種が発芽から7 年を迎える2020 年には、フェノタイピングを終え、QTL 解析により周期遺伝子領域を推定する予定である。 引き続きRNA-seq を用いたトランスクリプトーム解析を進め、コダチスズムシソウの周期遺伝子を探索していきたいと考えている。また、海外に分布するコダチスズムシソウの近縁種には、6 年、9 年、12 年周期で一斉開花するものが知られている。これらの植物を入手し、コダチスズムシソウと比較していくことで、生物時計を解明するとともに、その進化も明らかにしていきたいと考えている。 4. 参考文献 D. H. Janzen. 1976. Annu. Rev. Ecol. Syst., 7: 347-391. S. Kakishima, J. Yoshimura, H. Murata, J. Murata. 2011. PLoS One, 6: e28140. H. Tsukaya, S. Kakishima, A. Hidayat, J. Murata, H. Okada. 2012. Tropics, 20: 79-85. 5. 連絡先 住所:〒432-8561静岡県浜松市中区城北3-5-1静岡大学創造科学技術大学院 E-mailアドレス:yoshimura.jin@shizuoka.ac.jp−69−

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