2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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コダチスズムシソウと昆虫の相互作用により進化した 周期的一斉開花枯死の分子メカニズムの解明 静岡大学創造科学技術大学院教授 吉村仁 1. 研究の目的と背景 周期的一斉開花植物(周期植物)は、それぞれの種(集団)に特異的な1年を越える周期で一斉に開花・枯死を繰り返す植物である。周期植物は、イネ科タケ亜科(10~120年周期)、キツネノマゴ科イセハナビ属(5~15年周期)に見られる (Janzen, 1976)。これまでに周期植物の進化要因として、捕食者飽食説や受粉効率説が提唱されている。捕食者飽食説とは、周期的に一斉に開花することで、主に種子食害生物の発生を抑制するという説であり、受粉効率説とは、同調的に開花することで、受粉効率を高めるという説である。本研究で扱うイセハナビ属のコダチスズムシソウStrobilanthes flexicaulisは、沖縄本島において、6年という周期植物としては短い周期で一斉開花・枯死を繰り返す(Kakishima et al., 2011)(図1A、B、D、G)。これまでの研究から、コダチスズムシソウにおいても、周期的一斉開花・枯死により、果実を食害するトリバガ科の1種の発生を抑制している可能性(捕食者飽食説)や、非一斉開花年に比べ、一斉開花時には圧倒的に多くの訪花昆虫がコダチを訪れること(受粉効率説)が示された(Kakishima et al., 2011)(図1E、F、H)。このことから、食害昆虫や訪花昆虫がコダチスズムシソウと相互作用することにより、周期的一斉開花・枯死が進化した可能性が示唆されている。 このような周期植物は、長時間を測る生物時計システムを獲得することで進化してきたと考えられる。近年、生物時計システムは多くの生物で明らかにされつつあり、その重要性は広く知られている。しかし、すでに明らかにされた生物時計システムの多くは比較的短時間のものばかりであり、1年を超える生物時計については全く研究が進んでいない。本研究では、周期植物のモデルとして、6年という周期植物としては短い周期で一斉開花・枯死を繰り返すコダチスズムシソウに注目した。温室での栽培実験において、コダチスズムシソウは栽培下でも基本的に6年目に開花するだけでなく、挿し木をしても発芽からの時間の記憶は維持されることから、個体サイズは開花シグナルとして重要ではないと考えられる。また、共同研究者の柿嶋聡博士(国立科学博物館)らは、9年周期で一斉開花する同属のS. cernuaを温室やインキュベーターで栽培したところ、それぞれ8年、7年で開花した(Tsukaya et al., 2012)。このことは環境変化のない条件で栽培してもある程度は時間を測ることができる一方で、環境シグナルによって生物時計を調節している可能性が示唆している。そこで本課題では、共同研究者の柿嶋聡博士らとともに、気温と日長をコントロールした栽培実験、周期遺伝子領域を推定するためのQTL解析、RNA-seqを用いた発現解析による周期遺伝子(発芽から6年目の開花を司る遺伝子)の探索などを行い、周期的一斉開花枯死の分子メカニズムの解明を目指した。 図1 野外でのコダチスズムシソウとオキナワスズムシソウ。(A)コダチスズムシソウの花。(B)コダチスズムシソウの一斉開花。(C)オキナワスズムシソウの花。(D)コダチスズムシソウの実生。(E)訪花するオキナワクロホウジャク。(F)訪花するセイヨウミツバチ。(G)開花後に枯れるコダチスズムシソウ。(H)種子食害者であるトリバガの1種の幼虫。トリバガの幼虫を赤矢印で示す。 2. 研究内容 発芽から開花までの6年間を測るために重要な環境シグナルを明らかとするため、気温と日長をコントロールした栽培実験を行った。気温条件として、28℃の高温、16℃の低温、28℃と16℃を3ヵ月ごとに移動させる気温シフトの3条件を用いた。日長条件として、「16時間明期、8時間暗期」の長日、「8時間明期、16時間暗期」−68−発表番号 33〔中間発表〕

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