2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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コドンに置換した変異体をコードするプラスミドセットを作製し、アンバーサプレッサーtRNAと変異型アミノアシルtRNA合成酵素(5)を利用してこれらのコドンに対応する位置にpBPAが導入されたBepAを大腸菌細胞内で発現させ、365 nmの近紫外光を照射した。抗BepA抗体を用いたウエスタンブロッティング解析によりBepAとの架橋複合体を検出するとともに、他のタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングおよび質量分析法により、架橋相手の同定を行った。 作製した179種のpBPA変異体のうち、抗BepA抗体を用いたウエスタンブロッティング解析の結果、40種以上の変異体において近紫外光の照射に依存した架橋複合体が確認された。これらの架橋複合体の中には、BAM複合体の構成因子であるBamA, BamC, BamDに対する抗体を用いても検出できるものがあった。これらの結果から、BepAのTPRドメインはBAM複合体に近接していることが明らかとなった。また、BepAの323番目または404番目の位置にpBPAを導入した変異体は、BepAの基質と考えらえるLptDと架橋複合体を形成した。この結果は、BepAと基質タンパク質が直接相互作用することを示した初めての例である。特に、404番目にpBPAを導入した変異体はBamAとも架橋複合体を形成したことから、この残基はBepAが基質をBAM複合体に受け渡す過程において重要な働きをしている可能性が示唆された。以上の結果からBepAはTPRドメインを介してLptDの輸送中間体と結合し、このドメインがBAM複合体と相互作用することを利用してLptDをBAM複合体に転移させると考えられる(図3)。 図3. LptDの外膜アセンブリにおけるBepAの作業モデル 3. 今後の展開 本研究ではウエスタンブロッティングおよび質量分析法により、BepAのTPRドメインと相互作用する因子を同定したが、未同定の架橋複合体も数多く残されている。これらの架橋相手を同定することは、BepAがどのような形でβバレル型タンパク質の生合成と品質管理に関わっているかを解明するために必要である。また、BepAのTPRドメインの同一のアミノ酸残基が、基質タンパク質とBAM複合体ということなる因子とどのようなタイミングで相互作用するかは不明である。本研究で得られた知見に基づいて相互作用の経時的変化を追跡することにより、BepAによるβバレル型タンパク質の生合成機構が明らかになると期待される。 4. 参考文献 [1] H. Nikaido, 2003. Microbiol. Mol. Biol. Rev., 67(4): 593-656. [2] S. Narita, 2011. Biosci. Biotechnol. Biochem., 75(6): 1044-1054. [3] S. Narita, C. Masui, T. Suzuki, N. Dohmae and Y. Akiyama, 2013. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 110(38): E3612-E3621. [4] N. Zeytuni and R. Zarivach, 2012. Structure, 20(3): 397-405. [5] Y. Ryu and P.G. Schultz, 2006. Nat. Methods, 3(4): 263-265. 5. 連絡先 〒020-0694 岩手県滝沢市砂込808 TEL: 019-688-5555 E-mail: snarita@morioka-u.ac.jp URL: http://www.morioka-u.ac.jp/kyoin/narita_shinichiro.php −57−

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