2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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細菌細胞表層の生合成と品質管理に関与するプロテアーゼBepAと 外膜タンパク質の相互作用の解析 盛岡大学栄養科学部 教授 成田 新一郎 1. 研究の目的と背景 グラム陰性細菌の外膜はリン脂質、リポ多糖、βバレル型タンパク質、リポタンパク質からなる特異な膜構造で、抗生物質などの異物に対して極めて効果的な透過障壁として働く(1)。外膜を構成する因子はすべて細胞質または内膜上で合成され、専用の輸送装置の働きで外膜まで輸送される(図1)(2)。外膜の機能が保たれていることはグラム陰性細菌の生存に重要であり、細菌は複数の表層ストレス応答機構を備えて外的環境の変化に対応している。中でもσE経路はグラム陰性細菌である大腸菌において最も重要な表層ストレス応答機構の一つと考えられている。我々はσEレギュロンのメンバーであるbepA遺伝子の機能解析を行い、BepAがリポ多糖の輸送に関わるβバレル型タンパク質LptDの生合成を促進するシャペロンとして働くとともに、生合成に失敗したLptDを分解するプロテアーゼとしても働くことを見出した(3)。BepAはβバレル型タンパク質の状態に応じて生合成と分解の2つの活性を使い分けることで、外膜の品質維持に寄与していると考えられる。 図1. グラム陰性細菌の外膜を構成する因子の輸送機構 BepAはペプチダーゼM48ファミリーに属するメタロプロテアーゼであり、N末端側にプロテアーゼドメイン、C末端側にtetratricopeptide repeat (TPR)ドメインを持つ(図2)。TPRドメインは一般にタンパク質間相互作用に関与することが知られており(4)、BepAもこの領域で基質と相互作用することが予想されるが、これまでにBepAと基質タンパク質との相互作用の様式は明らかになっていなかった。本研究ではBepAのTPRドメインを構成する全てのアミノ酸を一つずつ光架橋性非天然アミノ酸p-benzoylphenylalanine (pBPA)に置換した変異体ライブラリーを用いてin vivo光架橋実験を行うことにより、BepAと基質タンパク質あるいはβバレル型タンパク質のアセンブリに関わるBAM複合体との相互作用の様式を解明することを目的とした。 図2. BepAのドメイン構成 2. 研究内容 BepAのTPRドメインに存在する428番目のグルタミン残基(Q428)をpBPAに置換した変異体は、BAM複合体の構成因子であるBamAタンパク質と架橋形成することがわかっているが(3)、本研究の開始時点においてBepAのTPRドメインの構造は解明されていなかった。さらに、構造が既に決定されている他のタンパク質のTPRドメインとの相同性をもとにBepAのTPRドメインの構造を予測することは困難であった。そこで本研究では、BepAのTPRドメインのどのアミノ酸が基質タンパク質やBAM複合体の構成因子との相互作用に関与しているかを解析するために、網羅的なpBPA置換と架橋実験を実施した。BepAのTPRドメインを構成する179のアミノ酸残基に対応するコドンを一つずつアンバー −56−発表番号 28 〔中間発表〕

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