2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
64/223

酢酸菌に見出したユニークなウロン酸酸化系の解明とバイオリファイナリー技術への応用 愛媛大学農学部准教授 阿野 嘉孝 1. 研究の目的と背景 持続可能なエネルギーや化学物質の製造法の開発は,石油枯渇社会を迎える現代社会の最大の課題の一つである.現在,再生可能なセルロース,ヘミセルロース系バイオマスが利用を検討されているが,農産廃棄物等に多量に含まれるペクチンもまた有望な再生可能資源と考えられる. 果物果皮等に含まれるペクチンは,D-ガラクツロン酸(GalUA)を主成分とした複合多糖ポリマーであり,自然界では多種の糸状菌等が産生するペクチナーゼにより,容易にGalUAにまで分解される.GalUAは一部の細菌や真核生物により,それぞれ特有の細胞内代謝経路によって資化されることが示されている[1, 2]. 筆者らは,愛媛県特有の農産廃棄物としてミカンの搾汁残渣に着目し,これら廃棄物の有効利用を模索してきた.現在,搾汁残渣に含まれる果汁中のグルコース,フルクトースからエタノール燃料を生産する取り組みが進められているが,果皮自体は,現状では利用されないまま大量に廃棄されているに過ぎない.そのような過程の中で、筆者らは一部の酢酸菌にウロン酸を酸化変換する活性を有する株を見出し,この活性に基づくバイオリファイナリー技術の開発を進めている. これまでに,酢酸菌の細胞膜に局在する酵素がウロン酸の一つ,D−グルクロン酸をD-グルカル酸へと広い基質特異性により酸化することを見出している.本研究課題では,酢酸菌に見出したD-ガラクツロン酸酸化系の分子メカニズムを明らかにすることを目的とし,次世代の農産廃棄物をオンサイトで有価物へと変換するバイオリファイナリー技術へと応用展開することを目指すものである. 2. 研究内容(実験、結果と考察) 1) 酢酸菌由来GalUAdh精製とその諸性質 研究室保存菌株の中で最も高いGalUA酸化活性を示したGluconobacter oxydans NBRC 12528を選択し,酵素活性に対する培養条件の影響を調査した.炭素源の検討を行った結果,当該酵素はGalUAの有無に関わらず恒常的に発現していることが分かった.また,当該酵素の細胞内局在を検討したところ細胞膜画分に酵素活性を示すことが明らかとなり,他の酢酸菌の酸化発酵に関わる酵素群と同様に,呼吸鎖とともに機能していることが推測された[3]. 本酵素活性はピロロキノリンキノン(PQQ)の添加により大きく活性が上昇したことから,PQQを補酵素とするキノプロテインであることが判明した(図1A).GalUAの酸化生成物をHPAEC-PADにより解析した結果,反応液中からD-ガラクタル酸(GalAA)が検出された(図1B).このことから酢酸菌細胞膜に局在する酵素がウロン酸をアルダル酸へと変換することが明らかとなった.アルダル酸は米国エネルギー省が定める汎用性の高い重要化合物のひとつであり,本酵素反応の重要性が示される結果となった. 図1 PQQ添加のGalUAdhへの影響と生成物の解析 酢酸菌の細胞膜からGalUAdhの精製を試み,細胞膜画分からオクチルグルコシドを用いてGalUAdhを安定に可溶化し,DEAE-Toyopearl, CM-Toyopearlを用いて精製標品を得た.本酵素はSDS-PAGE上で80 kDaのシングルペプチドから成り,pH 3-4に至適をもつ酵素と判明した.(図2) 2) GalUAdh遺伝子の同定と過剰発現系の構築 得られた精製酵素のN末端アミノ酸配列から構造遺伝子の同定を試みたが,得られた酵素の精製度が十分でなく,遺伝子の同定にまで至らなかった.そこで,精製酵素の特徴と一致する候補遺伝子をゲノム情報から探 −54−発表番号 27〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る