2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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②メタノール誘導性遺伝子発現に関与するWscファミリータンパク質の機能解析 一方、メタノール誘導性に関わるシグナル伝達に関しては全く研究が進んでいなかったが、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの細胞膜におけるストレス センサーとして知られるWscファミリータンパク質が、メタノール誘導性遺伝子発現に関連することを示唆する結果を得ていた。本研究では、Pichia pastorisにおけるWscタンパク質のメタノール誘導性遺伝子発現における機能解析を行った。 Wscファミリータンパク質のP. pastorisにおけるホモログ(PpWsc1, PpWsc2, PpWsc3)についてそれぞれ遺伝子破壊株を作製し、メタノールでの生育、メタノール誘導性遺伝子発現レベルを比較したところ、PpWSC1破壊(Ppwsc1∆)株でのみメタノールでの生育が遅延し、メタノール誘導性遺伝子(AOX, DAS)の発現が著しく低下していた。また、PpWSC3の過剰発現はPpwsc1∆株のメタノールでの生育遅延を回復させ、PpWSC1/PpWSC3二重遺伝子破壊(Ppwsc1∆Ppwsc3∆)株のメタノール誘導性遺伝子発現レベルはPpwsc1∆株よりさらに低下した。これらの結果から、PpWsc1/ PpWsc3がメタノール誘導性遺伝子発現に関わる細胞表層の感知因子であることを明らかにした7)。また、PpWsc1とPpWsc3のメタノール濃度への応答性の違いを比較するため、Ppwsc1∆Ppwsc3∆株にPpWsc1、PpWsc3をそれぞれ発現させた株を作製し、メタノール誘導性遺伝子発現レベルを比較したところ、PpWsc1が低濃度メタノール (0〜0.05%)、PpWsc3が高濃度メタノール (0.05〜2%)への応答に重要であることがわかった。 ③メタノール誘導性遺伝子発現のエタノール抑制不能株の取得とその解析 さらに、メタノール酵母における異種タンパク質生産のための新規宿主として、メタノール誘導の抑制不能株の取得と変異原因遺伝子の特定を行った。メタノール誘導性遺伝子はグルコースおよびエタノールの存在によりその発現が抑制される。異種タンパク質生産酵母の炭素源利用性を高めるために、エタノールとの混合培養によりメタノール誘導性遺伝子発現の抑制が解除されるP. pastoris変異株取得を試みた。 メタノール誘導性遺伝子発現は、メタノールが存在してもエタノールによって抑制される(エタノール抑制)。P. pastorisを用い、メタノールとエタノール共存下におけるエタノール抑制不能変異株をスクリーニングによって取得した。変異株ではアルコールデヒドロゲナーゼをコードするPpADH2が変異していたことから、エタノール代謝がエタノール抑制に関わることが示唆された。そこで、エタノール代謝に関連する遺伝子破壊株を作成し、メタノール誘導性遺伝子発現への影響を解析した結果、エタノール抑制は、エタノール自身ではなく、エタノールがアセチルCoAへ代謝されることが重要であることを見出した。 3. 今後の展開(計画等があれば) メタノール酵母がもつ「強力なメタノール誘導性遺伝子発現」と「植物表層での生育能」などの有用形質を制御する新規遺伝子の発見により、異種タンパク質生産系での利用という応用面での成果だけでなく、メタノール酵母がどのようにしてメタノール資化能を獲得したのか、また本酵母の代謝生理機能と自然界(植物表層)での生理・生態にはどのような関連があるのか、進化学的・生態学的観点からもインパクトの高い成果が得られることが期待できる。 一方、メタノールエコノミーにおけるバイオプロセスにおいては、メタンやメタノールなどのC1化合物を利用するC1微生物の代謝生理機能が活用できる。酵母メタノール誘導性遺伝子発現制御の分子基盤は、メタノール酵母による異種タンパク質生産の高生産化・高効率化に直結するものであり、メタノールの物質生産プロセスへの積極的導入に繋がり、資源循環型物質生産体系の構築に多いに貢献することができる。 4. 参考文献 1) G. Olah, A. Goeppert, G. Prakash, 2006. Beyond Oil and Gas: The Methanol Economy. Wiley-VCH, Weinheim. 2) H. Yurimoto and Y. Sakai, 2009. Biotechnol. Appl. Biochem., 53(2): 85-92. 3) H. Yurimoto, M. Oku and Y. Sakai, 2011. Int. J. Microbiol., 2011: 101298. 4) K. Kawaguchi, H. Yurimoto, M. Oku and Y. Sakai, 2011. PLoS One, 6: e25257. 5) S. Oda, H. Yurimoto, N. Nitta, Y. Sasano, and Y. Sakai, 2015. Eukaryot. Cell, 14(3): 278-285. 6) S. Oda, H. Yurimoto, N. Nitta and Y. Sakai, 2016. Microbiology, 162(5): 898-907. 7) S. Ohsawa, H. Yurimoto and Y. Sakai, 2017. Mol. Microbiol., 104(2): 349-363. −53−

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