2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
62/223

酵母の代謝生理機能を基盤とするメタノールからの新規異種タンパク質 生産系の開発 京都大学大学院農学研究科准教授 由里本博也 1. 研究の目的と背景 近年、天然ガス、石炭、CO2、バイオマスなど様々な炭素資源を化学的方法でメタノールに導き、これを中心とする資源循環型工業体系『メタノールエコノミー』を構築することが提唱されている1)。メタノールは、石油・石炭に替わるエネルギー資源、炭素資源として、さらには低環境負荷型・循環型物質生産体系の基幹物質として注目されている。このメタノールを単一炭素源・エネルギー源として生育するメタノール資化性酵母(メタノール酵母)では、そのユニークな代謝系(強力なメタノール誘導性プロモーター)を活用した異種タンパク質生産系が構築され、本酵母は医薬品や産業用酵素などの様々な有用タンパク質を生産するための宿主として利用される。我々はこれまでに、メタノール代謝経路の生理的意義、メタノール誘導性遺伝子の発現制御様式ならびに関連する転写因子の機能解析など、メタノール酵母がもつメタノール代謝系に関する代謝生理および分子細胞生物学的な研究を行うと共に、メタノール酵母異種タンパク質生産系を利用して、有用酵素のオルガネラ内生産や高分泌発現などに成功してきた2,3)。また最近、メタノール酵母が、植物から放出されるメタノールを利用して植物葉上で増殖できること、そのために必要な代謝生理機能を初めて明らかにするなど4)、メタノールからの新規異種タンパク質生産系開発に必要な基盤的知見を蓄積してきた。今後メタノールをバイオプロセスで積極的に活用していくためには、本酵母の代謝生理機能を明らかにし、これを異種タンパク質生産系の強化に応用展開しなければならない。本研究では、メタノール誘導性遺伝子発現の転写活性化機構の解明と、新規異種タンパク質生産系の開発に関する研究を行った。 2. 研究内容(実験、結果と考察) ①酵母メタノール誘導性遺伝子発現に関与するCbHap3の機能解析 我々はこれまでに、メタノール酵母におけるメタノール誘導性遺伝子発現制御に関与する複数の転写制御因子を同定してきた。このうち、真核生物の呼吸関連遺伝子の転写活性化因子として知られるHap複合体が、Candida boidiniiにおいてはメタノール誘導特異的な転写活性化因子であることを明らかにした5)。C. boidinii Hap複合体は、CbHap2, CbHap3, CbHap5の構成因子から形成され、各構成因子が欠損するとメタノールに生育できなくなるが、各構成因子の機能や複合体形成メカニズムは不明であった。本研究では、CbHap3の機能解析を行った。 メタノール酵母C. boidiniiにおけるメタノール誘導性遺伝子発現を制御する転写活性化因子のうち、Hap複合体構成因子の一つであるCbHap3の機能解析を行った6)。CbHap3のC末端領域にはメタノール酵母に特有の配列があり、この領域は出芽酵母ScHap3など他の真核生物のHap3には保存されていない。そこでこのC末端領域を削除した変異型CbHap3を構築してCbHAP3遺伝子破壊株に導入したところ、メタノール誘導性遺伝子の発現レベルが低下し、メタノールに生育できなくなったが、変異型CbHap3は核に局在化した。一方、他生物のHap3と高い相同性を示すN末端領域を削除したCbHap3は、細胞質に存在し、DNA結合能も認められなかったことから、メタノール酵母に特有のC末端領域は、メタノール誘導性遺伝子の転写活性化に重要な役割を果たし、N末端領域は核移行やDNA結合というHap3の基本的な機能に重要であることがわかった(図1)。 1292CbHap3CbHap5 DNA CbHap3C (16-100)C(225-292)CbHap2 図1. CbHap複合体の形成と転写活性化モデル 顔写真25mm×30mm程度−52−発表番号 26〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る