2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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三次元デジタル電気泳動法に基づく新規ブロッティング分析法の開発と 細胞内薬物動態解析への応用 大阪府立大学大学院工学研究科 テニュア・トラック助教 末吉 健志 1. 研究の目的と背景 ゲル電気泳動に基づく分離と特異的検出を組み合わせたウエスタンブロッティングは、生体内タンパク質解析において必須の分析法である。しかしながら、長い分析時間、低い再現性・検出感度、多数の装置を要する煩雑な実験操作、多い必要試料量・試薬量などの課題については改善が望まれている。近年では、ミクロスケール分析技術を応用したタンパク質の分離・特異的検出法も開発されているが、マイクロデバイス作製に高コスト・長時間を要する点がボトルネックとなり、その普及はほとんど進んでいない。そこで、これらの問題点の新たな解決案として、本研究では機能性ゲルとミクロスケール電気泳動技術を組み合わせた、簡便かつ作製容易なデジタル電気泳動デバイスを用いる多次元分析法を新たに着想した。そして、ウエスタンブロッティングに用いられる二次元電気泳動 (等電点電気泳動 + ゲル電気泳動) と特異的検出を1デバイスで実現可能な新規デバイスを実現するため、pH緩衝能を有するヒドロゲル (pH緩衝ゲル)、分子ふるい効果を有するヒドロゲル (分子ふるいゲル)、免疫反応に基づく選択的捕捉能を有するヒドロゲル (アフィニティゲル) が連続的に接続された積層ゲルを多次元分離場として用いる『三次元デジタル電気泳動分析法』の開発を目的として研究を遂行した。また、開発したデジタル電気泳動技術に基づく迅速・高再現性・高感度・簡便な生体由来試料解析の実現を目指して、デバイスの最適化に取り組んだ。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 2.1. 一次元デジタル電気泳動デバイスの開発・評価 三次元デジタル電気泳動に基づくウエスタンブロッティングデバイスの構成要素として、等電点電気泳動分離、分子ふるい分離、アフィニティ分離・検出が必要である。それぞれの分離を実現するための機能性ゲルとして、ポリアクリルアミドゲルを基材としたpH緩衝ゲル・分子ふるいゲル・アフィニティゲルをそれぞれ調製した。また、添加した機能性分子濃度やアクリルアミドモノマー濃度が分離・濃縮に与える影響について、一次元デジタル電気泳動に基づく評価を行った。 まず、異なるモノマー濃度を有するアクリルアミド溶液を用いて、異なる三次元網目構造を有するヒドロゲルを調製した。これを評価用キャピラリー内に連続的に充填・積層し、デジタル分子ふるい分離について評価を行った。作製したキャピラリー内にタンパク質試料混合液を導入した結果、各ヒドロゲルの分子ふるい効果の違いによって、分子量の異なるタンパク質が異なるゲル界面に濃縮・分離される様子が観察された (図1)。また、この時、未濃縮時の試料と比較して、約150倍の蛍光強度増加が確認された。以上の結果から、デジタル電気泳動のコンセプトに基づくタンパク質試料の分離・濃縮が可能であることが示された[1]。 続いて、pH緩衝ゲル積層デバイスを用いたタンパク質のデジタル等電点電気泳動分析について検証した。pH緩衝能を有する機能性モノマー分子を異なる比率でアクリルアミド溶液に混合して重合させ、pH 4~10程度の緩衝能を有する各種ヒドロゲルを調製した。また、異なるpH緩衝ゲルが連続的に充填されたキャピラリーを用いてデジタル等電点分離・濃縮を試みたところ、等電点の異なるマーカーやタンパク質が異なるゲル界面に分離・濃縮される様子が観察された (図2) [2]。 さらに、抗原抗体反応を利用したデジタルアフィニティ分離について、抗体内包ヒドロゲルの調製とそのキャピラリーデバイス化を検討した。その結果、内包された抗体を利用した標的タンパク質の選択的捕捉、分離が可能であることが示された[1]。 図1. デジタル分子ふるい電気泳動の概略と結果. −46−発表番号 23〔中間発表〕

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