2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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カル重合を行った。1と2は殆ど同じ構造であるが、高分子の主鎖からのリンカーの長さが異なる。1はアクリルアミドの共重合でかつ、1が10%以下の分率として含まれるときのみ、重合できた。一方で、2については、RAFTリビングラジカル重合することができた。1では共役構造を考えると、アルキン部分と主鎖アクリルアミド部位まで広い共役があるために、ラジカル重合するために反応性が不十分であった。このように似たようなアルキンを側鎖にもつモノマーでも、共役性によってラジカル重合特性が大きくことなることがわかった(図2)。 図2リンカーの長さによる重合特性の違い モノマー3については、リビングラジカル重合特性に優れており、RAFTリビングラジカル重合を円滑に行うことができた。原子移動ラジカル重合による糖鎖高分子ブラシの形成も可能であった。 (2) インフルエンザウイルスの阻害活性 アクリルアミド型の糖鎖高分子について、インフルエンザウイルスと結合するシアリルラクトースを結合させて、糖鎖高分子を調製した。そして、インフルエンザウイルスとの結合活性の測定を行った(図3)。 6シアリルラクトースを結合させた糖鎖高分子については、ヒトインフルエンザウイルスとの結合が明確に見出された。一方で、3シアリルラクトースはトリインフルエンザウイルスと結合することが知られているが、明確に結合が見出されなかった。また、糖鎖高分子の糖鎖含有率を増加させた場合については、結合がより明確に見出された。天然のインフルエンザウイルス結合が知られている糖タンパク質フェツインを指標として、この結合を比較した。一部の高分子については、フェツインよりも優れた結合が見出された。そのため、合成高分子で天然物を超えたインフルエンザウイルスの阻害活性効果を発揮しうることが示された。 (3) 糖認識タンパク質と糖鎖高分子の結合アッセイ モノマー3を用いて糖鎖高分子の合成を行った。特に、トリエチレングリコールメタクリレート 図3ヒトインフルエンザウイルスに対する糖鎖高分子の赤血球凝集阻害試験の結果の一例。 (TEG-MA)との共重合を行って、ブロック共重合体の調製を行い、糖鎖の分布が偏ったポリマーの合成を行った。ConAとの結合活性について調べると、糖鎖の高分子に対する密度ではなく、ConAの糖鎖結合サイトにあったように糖鎖を提示できた高分子で結合が高くなることがわかった。 3. 今後の展開 これまでの結果で糖鎖高分子を精密に設計するためのモノマー設計、ポリマーの合成手法について明らかにした。また、糖鎖高分子をブロック共重合体にすることで、相互作用を制御できることも明らかにした。 糖鎖のブロック共重合体の精密な調製によって、ターゲットタンパク質にあった、高分子リガンドの開発を行う。今後は、(1)高分子の形状の制御も含めて精密重合を行い、高分子を用いたインフルエンザウイルスの阻害薬、(2)静電荷、疎水性相互作用などの他の相互作用の官能基を加えて、より相互作用を特異的に制御していく。 4. 参考文献 (1) Nagao M. et al., Polymer Journal, 2016, 48, 745. (2.)Nagao M. et al., Polymer Chemistry, 2016, 7, 5920. 5. 連絡先 〒819-0395福岡市西区元岡744九州大学大学院工学研究院化学工学部門miuray@chem-eng.kyushu-u.ac.jp −45−

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