2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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精密高分子合成を基盤とした、病原体捕捉材料の開発と活用 九州大学大学院工学研究院教授 三浦佳子 1. 研究の目的と背景 近年、高齢化社会の進展、新興感染症の出現などによって、疾病が増加している。疾病を抑えるための薬剤としては、以前は低分子有機化合物が中心であったのに対して、抗体やタンパク質、リガンド(糖鎖、ペプチド)などが高い効果を発揮することが明らかになって注目を集めている。また、新薬開発の上でも、抗体やタンパク質の重要性は高くなってきている。一方で、抗体、タンパク質、リガンドは高価であり、また品質を保つことも難しい。そのため、抗体やリガンドを安価にして、病原体の捕捉に用いることが望まれる。病原体を捕捉する抗体やリガンドは精密な分子構造を持ち、強い結合を達成している。すなわち、生体分子は静電相互作用や水素結合などの一つでは弱い結合を集積化して強い分子認識を達成している。そこで、本研究で、分子認識に関する高分子モノマー分子のシーケンスと分子スケールをリビングラジカル重合による精密重合法によって制御する方法を開発し、病原体を精密に認識できる高分子の開発を行うことを目的とする。分子認識を行う高分子としては、高分子の側鎖に、ウイルスやタンパク質と結合することが良く知られている、生理活性糖鎖を配置した糖鎖高分子を特に研究対象とする。生理活性糖を配置した、高分子のモノマーはかさ高いため、重合が難しいことが知られている。本研究では、ポストクリックケミストリーを用いた糖鎖高分子の精密合成の確立、モノマーの設計、タンパク質、ウイルスとの結合活性について検討を行った。研究内容実験(1)モノマーの設計、糖鎖高分子の合成 図1本研究で用いたモノマーの化学構造。 糖鎖高分子の重合を行うモノマー分子の設計について、図1のように3つの分子を合成して準備して、重合実験を行った。高分子の重合については、1と2はアクリルアミドとの共重合体として調製し、3は単独重合または、polyethylene glycol methacrylateとの共可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合法を用いた。重合の確認については、1H-NMRによって行い、分子量の測定はGPCと光散乱法によって求めた。 アルキンの側鎖を持つ高分子への糖鎖の付加は、動触媒(Cu(I))を用いたクリック反応によって行った。糖鎖の付加は1H-NMRによって確認した。 (2)インフルエンザウイルスとの高分子の結合アッセイ 6-シアリルラクトースを側鎖に結合させた高分子(モノマー1と2を使用)については、インフルエンザウイルスウイルスへの結合について検討した。血液中の赤血球がインフルエンザウイルスによって凝集することが知られているが、糖鎖高分子を添加することによってこの凝集がどのように変化するかについて定量した。ウイルスとしては、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)とトリインフルエンザウイルス(H5N3)を用いた。ウイルスの阻害効果の測定については、静岡県立大学鈴木研究室に行っていただいた。 (3) 糖認識タンパク質と糖鎖高分子の結合アッセイ モノマー3を用いた高分子をRAFTリビングラジカル重合を行い、マンノースをクリックケミストリーによって結合させた。マンノースを認識するタンパク質として、コンカナバリンA(ConA)があり、これを用いた糖鎖高分子の分子認識について調査した。FITCでラベルした、ConAに対して、重合した各種の糖鎖高分子を加えることで、FITCの消光について検討した。FITCの消光の程度について、糖鎖の濃度に対して換算することで、糖鎖高分子とConAの結合定数を定量的に換算した。 2.2結果と考察 (1)高分子の重合について 1と2について、n-butyl 2-cyano-2-propyl tithiocarbonate(CPBTC)を用いたRAFTリビングラジ−44−発表番号 22〔中間発表〕

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