2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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子を観察した(図3)。さらに導入したヒトiPS細胞由来の肝前駆細胞の遺伝子発現量を評価したところ、培養とともに未分化マーカーであるOct3/4などの発現量が減少し、成熟肝マーカーであるアルブミンなどの発現量が増加することを示した。さらに、遺伝子発現の上昇のみならず、培地中にもアルブミンが分泌されていることも確認した。以上の結果は、導入した肝前駆細胞が培養とともに成熟肝細胞へと分化し、肝細胞として機能していることを示唆している。 最後に、作製した血管構造をマウスの血管と接続し、人工血管として応用できるか検討した。具体的には、どのようにして生体に移植すれば効率よく血管同士を接続させ、作製した組織を機能させられるのかを様々な外科的手法を用いて実験を行った。まず作製した血管構造を長期間留置するための移植チャンバを作製した。そして作製した移植チャンバをマウスの腹部に移植し、拒絶反応や炎症反応が起こらないか評価した。その結果、1週間後も炎症反応などは見られず、作製したチャンバは生体適合性が高いことを確認した。さらに、作製した血管構造とマウス血管とはカテーテルを用いることで接続することが可能であり、接続した直後からマウスの血液が流入する様子が観察された(図4)。血管を接続した12時間~24時間後には、血管構造の周囲に導入した肝細胞スフェロイドの分泌したアルブミンがマウス血液中で検出されることを見出した。以上のことから、血管構造を有する肝組織およびその移植法は有用であり、肝疾患への治療に応用できる可能性を示唆している。 3. 今後の展開 本研究で確立した手法は、これまで薄い二次元の組織に限られていた再生医療分野の限界を三次元的な厚みのある重要な臓器へと拡張できると考えられる。つまり、血管構造の周囲に導入したハイドロゲル内にあらかじめ充填する臓器細胞を変更することで、肝臓だけではなく腎臓や脾臓などの三次元的な組織の構築の基盤技術となることが期待できる。また、癌の転移モデルや創薬スクリーニングにも応用可能であり、幅広い波及効果が期待できる。 4. 参考文献 1. R. Inaba, A. Khademhosseini, H. Suzuki, J. Fukuda, Electrochemical desorption of self-assembled monolayers for engineering cellular tissues. Biomaterials. 30, 3573-3579, (2009). 2. T. Kakegawa, N. Mochizuki, N. Sadr, H. Suzuki, J. Fukuda, Cell-adhesive and cell-repulsive zwitterionic oligopeptides for micropatterning and rapid electrochemical detachment of cells. Tissue eng. Part A. 19, 290-298, (2013). 3. T. Kageyama, T. Osaki, J. Enomoto, D. Myasnikova, T. Nittami, T. Hozumi, T. Ito, J. Fukuda, In Situ Cross-Linkable Gelatin-CMC Hydrogels Designed for Rapid Engineering of Perfusable Vasculatures, ACS Biomater Sci Eng, 2, 1059-1066 (2016). 5. 連絡先 〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5化工安工棟516室 TEL: 045-339-4008 Email: fukuda@ynu.ac.jp 図3 血管様構造の間隙に包埋したiPS由来肝前駆細胞スフェロイド(緑)と内皮細胞(赤) 図4 作製した血管様構造へのマウス血液流入 −43−

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