2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ヒトiPS細胞を用いた立体的な肝組織の構築とマウス移植モデルによるin vivoイメージング 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 福田 淳二 1. 研究の目的と背景 iPS細胞を用いた再生医療の臨床応用がまさに始まろうとしている。しかし現状では、作製できる移植用組織のサイズは、皮膚や角膜に代表されるかなり薄いものに限られている。今後、再生医療を本格化させるためには、肝臓のような厚みのある臓器・組織の作製が必要不可欠である。厚みのある組織を生体外で構築するためには、酸素や栄養素を運搬するための血管構造を作製する技術の確立が重要となる。本研究では、幹細胞生物学に加え、工学的技術を組み合わせることで毛細血管を含む肝組織を構築することを目的とした。そして、これをマウスに移植し、移植組織の血管と生体血管が接続されることを小動物を用いた実験により実証することで、構築した肝組織が再生医療に有用であることを示す。 2. 研究内容 我々は、電気化学的な反応により、5分程度で細胞を培養表面から非侵襲的に脱離する技術を開発してきた1,2(図1)。この原理は、金-チオール結合により金電極表面に密なペプチド分子層を形成し、これを介して接着させた細胞を、金-チオール結合を電気化学的に切断することで、ペプチド層とともに脱離させるものである。脱離に用いるペプチドは分解されてもアミノ酸しか生じず、安全性の高い方法であるといえる。さらに電気化学的な脱離法は平面のみではなく、例えば管状の金ニードルにも適応できる。直径500μmの金ニードルからヒト血管内皮細胞を脱離してゲルに転写することで、内表面が血管内皮細胞に裏打ちされた血管様構造を作製し、培養液を送液できることを示した3(図2)。さらにヒトの発生過程を模倣し、作製した血管構造の間に血管内皮細胞と間葉系幹細胞を導入し、密な相互作用を生じさせることで、血管構造間を接続するような微細な毛細血管網を構築できることを見出した。血管内皮細胞が自発的に形成した毛細血管網は、20~30 μm程度の太さが多く、最大で直径100 μm程度の血管構造もあった。この作製した毛細血管網構造内には、蛍光標識したマイクロビーズが流入することを確認し、電気化学の手法で作製した血管構造間を接続していることを示した。さらに細胞間結合を免疫染色法によって評価した結果、生体内と同様にVE-カドヘリンと呼ばれる結合様式で細胞同士が密に結合しており、血管としてのバリア機能を果たしていることも示した。これらの結果は、作製した血管構造および毛細血管網構造は、生体内に近い構造であることを示唆している。 次に、ヒトiPS細胞を肝前駆細胞へと分化誘導し、スフェロイド培養器を用いて細胞凝集体(スフェロイド)を作製した。肝前駆細胞はスフェロイド培養によって肝細胞としての高い機能を発現することを見出した。そして、電気化学細胞脱離法を用いて作製した血管構造内に血管内皮細胞と間葉系幹細胞に加え、ヒトiPS由来の肝前駆スフェロイドを導入し、発生の過程を模倣した組織培養に取り組んだ。数日間の送液培養の結果、肝前駆細胞と血管内皮細胞が相互作用しながら増殖していく様 図2 電気化学的な細胞脱離を用いた血管構造の作製 図1 電気化学的な細胞脱離 −42−発表番号 21〔中間発表〕

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