2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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これらの発色状態の発現機構を解明するため,FE- SEMを用いて電極上に析出した銀粒子の表面形状を観察したところ、マゼンタ発色状態では平均粒径約37 nmの銀粒子が析出していた.これらの銀粒子の粒径分布は定電圧を印加した際に析出した銀粒子よりも小さく,ステップ電圧印加時により粒径の均一な銀粒子が得られることが分かった.ステップ電圧印加時間の増加にしたがって,銀粒子が成長するとともに粒子同士の接触・融着が生じ,20秒後のシアン状態では厚さ約54 nmの薄膜状態となった.同様に,ステップ電圧印加によりITO粒子修飾電極上に析出させたところ,粒径10~20 nmの微小な銀粒子がITO粒子間に多量に析出したが,銀粒子同士の融着は少なかった. また,これら析出銀の形状と光学特性との相関について検討した.図3に,化学的に合成された銀ナノ粒子分散液[5]および本EC素子における析出銀粒子のLSPRのピーク波長の粒径依存性を示す.SEM,TEMの観測結果とあわせて考察すると,マゼンタ・シアン・イエローの各状態のLSPR吸収は,析出銀粒子の粒径とその構造的異方性によって説明できることがわかった[6]。 最後に,単一のEC素子に種々の電圧を印加し,マルチカラーEC 発現の実証を行った(図4).-2.5 Vの定電圧印加により平滑ITO電極上へ銀を析出させることで鏡状態,ITO粒子修飾電極上への銀析出により黒状態が発現した.また,平滑ITO電極上へステップ電圧を印加することで,電圧印加時間に応じてマゼンタおよびシアン,ITO粒子修飾電極上へステップ電圧を印加することでイエロー発色が得られた.これらの発色状態はいずれも銀の酸化溶解電圧印加により透明状態へ変化可能であり,透明状態から,鏡,黒に加え,マゼンタ,シアン,イエローの三原色を含む5 種の発色状態を単一素子にて可逆に発現可能な銀析出型マルチカラーEC 素子が実現した. 3. 今後の展開 銀電着という広く知られた現象を用いて,電極表面形状および析出電圧印加手法,また素子全体としての電気化学反応の最適化によりLSPR 帯を可逆にコントロールし,鏡状態やCMY 三原色を含む多色表示を単純な構造の単一素子によって実現した.このEC 素子は銀粒子の析出形状の制御のみで表示色を切り替えるため,従来のEC 素子とは異なり多段の価数変化の必要がなく,優れた繰り返し安定性が期待できる.また,素子構造が比較的単純であることから,産業的な応用展開へも期待される.電子ペーパーやデジタルサイネージ等の表示デバイスや,スマートウィンドウなどの環境調和型調光デバイスとして,この銀析出型EC 素子の多様な発色が我々の生活を彩る将来を期待したい. 4. 参考文献 [1] S. Araki, K. Nakamura, K. Kobayashi, A. Tsuboi and N. Kobayashi, Adv. Mater., 24, OP122 (2012). [2] G. Sandmann, H. Dietz and W. Plieth, J. Electroanal. Chem., 491, 78 (2000). [3] A. Tsuboi, K. Nakamura and N. Kobayashi, Adv. Mater., 25, 3197 (2013). [4] A. Tsuboi, K. Nakamura and N. Kobayashi, Chem. Mater., 26, 6477 (2014). [5] D.D. Evanoff Jr. and G. Chumanov, 2005. ChemPhysChem, 6, 1221 (2005). [6] R. Onodera, A. Tsuboi, K. Nakamura and N. Kobayashi, 2016. J. Soc. Inf. Disp., 24, 424 (2016). 5. 連絡先 千葉大学大学院工学研究院 〒263-8522千葉市稲毛区弥生町1-33 Nakamura.Kazuki@faculty.chiba-u.jp図3銀ナノ粒子の粒径とLSPR吸収波長の関係 020406080100120140350400450500550600LSPR peak wavelength / nmParticle size diameter / nmイエロー球形の銀ナノ粒子分散液(Ref.4)マゼンタ透明状態平滑ITO電極ITO粒子修飾電極鏡平滑ITO電極上定電圧黒ITO粒子修飾電極上イエローITO粒子修飾電極上ステップ電圧シアンマゼンタ平滑ITO電極上短時間長時間図4 単一素子にて透明・鏡・黒・マゼンタ・シアン・イエローの6態を発現可能な銀析出型EC素子 −41−

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