2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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省エネ型スマートウィンドウへ向けた新規プラズモン吸収帯制御多色調光ガラス 千葉大学大学院工学研究院准教授 中村一希 1. 研究の目的と背景 物質の色や光学特性はその電子状態を反映するため,電気化学的な電子の授受,いわゆる酸化還元反応によって電子状態を可逆に制御することにより,物質の色や光学特性の可逆制御が可能となる.この現象はエレクトロクロミズム(EC)と呼ばれ,電子ペーパーや防眩素子,省エネ調光ガラス(スマートウィンドウ)等の環境調和型素子としてその応用展開が急速に進展し,注目を集めている.これらのEC素子の調光ガラスや表示素子への応用のため,マルチカラー変化の実現が期待されている.従来の一般的なECは,物質に酸化還元を行うことで価数を変化させ,それに伴う電子状態の変化により物質の色を変化させている.したがって,一つの物質で複数色を発現するには複数の価数変化が必要となるが,多段の酸化還元は物質の安定性を損なうなどの短所が顕在化してしまう.実際,多段の酸化還元を示す物質としては金属錯体や導電性高分子などがあるが,高酸化還元状態での安定性に問題があった. 申請者らはこの様な課題に対し,電極上に還元析出することで色変化を示す金属の電気化学応答をEC反応として利用したプラズモン吸収帯制御カラーEC素子を提案し,無彩色から有彩色まで,多様な光学状態を安定・可逆に発現可能な多色EC素子の構築を目指している.すなわち,電気化学的に析出させた金属ナノ粒子の局在表面プラズモン吸収帯がナノ粒子の粒径や形状を制御することで様々な光学状態を実現しようとするものである.本申請研究では,この新規プラズモン吸収帯制御カラーEC素子の調光・表示ガラス応用へ向けたフルカラー化(シアン・マゼンタ・イエロー表示)および高機能化を目的とした. 2. 研究内容 これまでに我々は,対極にITO粒子修飾電極を導入することで銀の析出形状を制御し,単一素子において透明・鏡・黒状態を発現可能なEC素子を構築した(図1)[1].しかし,これらの発色変化はいずれも色味を持たない無彩色の発現に限られていた.フルカラー表示の可能なEC素子としての展開を視野に入れた場合,CMY三原色の発現が求められる.そこで,電解析出銀粒子の粒形を制御し,LSPR吸収帯を制御することで,CMY三原色を含む有彩色の発現と制御を目指した. そのための手法として,印加電圧を2段階にステップさせる手法(Voltage-step method)に注目した[2].この手法は,核生成電圧より高い第1電圧(V1)を短期間印加した後,粒子成長のみが進行する低い第2電圧(V2)を印加することで核生成期間と成長期間を分離し,均一な粒径の粒子生成を可能とするものである.さらに,各電圧(V1, V2)および電圧印加時間(t1, t2)を調整することで銀粒子の析出数や粒径の制御が可能である.硝酸銀とハロゲン化物イオンを含むECゲル電解質を挟み込んだ2極型EC 素子において,平滑ITO電極を銀析出電極としてV1:-3.8 V(50 ms)→V2:-1.4 Vのステップ電圧を印加したところ,素子の色調はV2印加5秒で波長500~540 nmに吸収帯が現れ、マゼンタとなった。その後吸収ピーク波長が大幅に長波長シフトし,シアンへと貴重が変化した(図2a) [3, 4].一方,ITO粒子修飾電極を銀析出面としてステップ電圧を印加すると,色調は平滑ITO上での銀析出と大きく異なり,V2印加3秒程度で410 nm付近に吸収帯が現れイエローに色調変化し、その後もイエローの色調を維持した(図2b). Ag+ complex透明状態Ag metalミラー状態Ag+ complexAg metal黒着色状態Ag+ complex図1 透明・鏡・黒表示が可能な銀析出型EC素子 図2 ステップ電圧印加によるEC素子の吸収スペクトル変化(a) 平滑ITOに銀析出,(b) ITO粒子膜側に銀析出 20 s5 s0 s20 s5 s0 s4005006007000.00.51.01.5AbsorbanceWavelength / nm(a)(b)−40−発表番号 20〔中間発表〕

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