2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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レアメタルからの脱却を指向した分子変換反応の開発可視光空気酸化による脱水素炭素炭素結合形成反応岐阜薬科大学創薬化学大講座合成薬品製造学研究室助教 山口英士 1. 研究の目的と背景 脱水素–カップリング反応は、2つの炭素–水素結合を炭素–炭素結合へと変換する事が可能な魅力的な反応であるとともにユビキタス結合である炭素–水素結合の直接変換法において金字塔として評されている。とりわけ、これまで合成困難な化合物を迅速に得ることが可能であり、合成段階を最小限に低減させる理想的な環境調和型の反応である。しかしながら従来この反応には酸化剤として化学量論量の有機、無機化合物が使用されており、反応終了後に多量の還元種廃棄物が副生するといった欠点があった。これに加え、遷移金属触媒により炭素–水素結合を切断するには熱的に触媒を活性化し反応を促進させる必要があるため、エネルギー低減の観点から室温近傍での反応が望まれている。これらの改善点は、持続可能な社会を実現するために必要不可欠である。以上のことから、この原子効率の高い反応を環境調和型で達成し、既存の反応にはない機能を発現しうる触媒系の構築は今後持続可能な化学を実現するために近年非常に望まれている。本研究の目的は、上述したような様々な問題点を含むこの脱水素–カップリング反応を環境調和型プロセスで達成することである。上述の目的を達成するために末端酸化剤として酸素を使用すること、遷移金属触媒を用いない触媒系で生成物を与える反応を構築することを目指す。すなわち、地球上にほぼ無尽蔵に存在し理想的な酸化剤である空気中の分子状酸素を末端酸化剤として用い、高価な遷移金属触媒を使用しない反応系の構築は既知の方法論と比較してコスト環境に優しい反応となる。また従来法では、加熱条件下遷移金属からの出発化合物への一電子移動により反応中間体であるラジカル種を生成することが反応進行の鍵となっているが、本法では非熱的な触媒の活性化すなわち光化学的に触媒活性種を生成することで反応中間体のラジカル種を生成することが、本反応達成の鍵となると考えている。また、上述の方法論を利用する本研究では、カルボニル化合物の位と複素環化合物との直接カップリング反応を脱水素–カップリング様式で達成することを目標としている。このカップリングの組み合わせで得られる生成物は、天然物,医薬品として頻出の構造を有する化合物であり、従来法では多段階の煩雑な合成手順、高価な遷移金属触媒、高反応性の反応剤などおよそ実際のプロセスでは運用困難な反応を安価,簡便,環境調和型で達成可能な従来法とは根本的に異なるプロセスで実現することを目的としている。2. 研究内容 申請者の所属する研究室では、ジオンのような活性メチレンを有する化合物に対し、酸素雰囲気下、触媒量のヨウ化カルシウムを可視光照射下反応させることで、メチレン部位での酸化反応転位反応が連続的に進行しを与えることを明らかにしている。この反応では中間体としてラジカル種の生成が示唆されており、これを利用することで、これまで遷移金属触媒を利用しラジカルを発生させていたプロセスを触媒量の無機ハロゲン塩を用いることで代替可能ではないかと考えた。また、同反応において触媒の再酸化は酸素で十分行われることも示されている図。図光酸素酸化的タンデム酸化転位反応この結果より、カルボニル位炭素ラジカルを可視光とヨウ素を作用させるのみで発生させることが可能であることが示唆されたため、本研究ではこの活性種を利用する分子変換反応の開発研究に着手した。可視光を利用する分子間シクロプロパン化反応上述の炭素ラジカル種は電子不足ラジカルであるため、本条件下分子間での付加反応が進行するか、スチレン類を基質として反応を行った図。 図2. 可視光を利用する直接シクロプロパン化反応 結果的に、活性メチレン化合物とヨウ素を塩基性条件下反応させることで対応するシクロプロパンが得られた。また中間体であるヨウ素化されたマロン酸は、可視光による炭素ヨウ素−38−発表番号 19〔中間発表〕

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