2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ポルフィリン−リチウムハイブリッドを利用するポルフィリン集積体の創出 京都大学大学院理学研究科教授 依光英樹 1. 研究の目的と背景 ポルフィリン集積体は光合成において中心的な役割を担っており、新規ポルフィリン集積体を合成し、人工光合成など光・電子機能性有機材料としての利用を目指す研究は重要である。ポルフィリン集積体には、ポルフィリン同士をつなぐ「架橋ユニット」が存在する。一般に架橋ユニットが集積体の物性に与える影響は絶大であり、斬新な架橋ユニットを開発できれば、斬新な構造と機能を持つポルフィリン集積体の創出が期待される。 ホウ素の空のp軌道やケイ素のσ共役を組み込んだπ電子系有機材料が優れた光電子物性を示すとして近年注目されている。この背景を踏まえると、ホウ素やケイ素を架橋ユニットとしてポルフィリン集積体を合成する研究は興味深い。この合成を実現するためには、反応性の高い「ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤」を調製し、これをホウ素/ケイ素求電子剤に対して反応させれば良いはずである。しかし、「ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤」はその不安定性ゆえにこれまで報告例がなく、ホウ素/ケイ素架橋ポルフィリン集積体の合成例もまた皆無である。また、より広い観点から、この高反応性反応剤は多様なポルフィリン集積体の合成を可能にする最強の鍵反応剤と考えられる。 本研究では、ポルフィリン集積体の合成を可能にする「ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤」の発生法について検討した。また、この反応剤を駆使して、ホウ素やケイ素などで架橋したポルフィリン集積体の合成とその機能探索を行った。 2. 研究内容 1)ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤の発生とホウ素架橋ポルフィリン二量体の創出1)本研究を始めるにあたり、ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤の確実な発生法をまず確立した。具体的には、2.0 mLのTHF溶媒中–98 ˚Cで100 µmolのヨードポルフィリン1に対して1当量のBuLiを30分間作用させると、ヨウ素−リチウム交換によりポルフィリニルリチウム2を確実に発生させられることがわかった(図1)。なお、反応温度が高いとポルフィリン母核への求核付加反応などの副反応がおこるため、温度の制御は極めて重要である。 リチウム種2に対してメシチルジクロロボランを半当量作用させたところ、ポルフィリン二つがホウ素で架橋されたポルフィリン二量体3を合成できた(図1)。3は通常のポルフィリンと比べると長波長シフトした吸収を示し、ホウ素の空軌道がポルフィリンと共役していることを示している(図2)。一方で、フッ化物イオンを3に作用させると、吸収が通常のポルフィリンに近くなった。ホウ素の空軌道がフッ化物イオンで占有され、共役が途切れたためと考えられる。フッ化物イオンセンサとしての展開可能性を示唆するものである。 図1ポルフィリン−リチウムハイブリッド反応剤の発生とホウ素架橋ポルフィリン二量体の合成 図2 CH2Cl2中での3の紫外可視吸収スペクトル(Bu4NF添加前を黒、添加後を赤で示す。) NNNNArArNiArB3 25%NNNNArArNiAr1INNNNArArNiArAr = 3,5-tBu2C6H3MeMeMe1.1 equiv BuLi0.55 equivNNNNArArNiAr2LiTHF, –98 ˚CMeMeMeBClCl−32−発表番号 16〔中間発表〕

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