2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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上記のD2Oガスの選択的吸着特性および想定される機構が一般性を有するかを確認するため、図2で示した[Fe2(dobdc)]と同等の細孔表面積および細孔径を有する[Cr3O(BDC)3F](BDC = 1,4-benzenedicarboxylate, Cr-MIL-101と呼ばれる)を合成し、上記例と同様に各種水分子同位体の吸着等温線を298 Kにおいて測定した(図3)。この構造は内部に金属イオン由来のルイス酸性点を有する。結果[Fe2(dobdc)]と同様、ガス圧力1~1.5 kPaの領域でD2Oへの選択的吸着がより低圧側で起こることが確認された。またこの試料においては当該圧力領域で1gあたり600~700 mL(STP換算)という非常に大きなD2O選択的吸着量を示すことがわかり、水の内部導入の共同的効果が特にD2Oで顕著に現れ、このような吸着分離機能に結びついたと考えられる。 以上の結果をもとに、「水(同位体)分子の細孔内クラスター化」とそれを引き起こす際の適切な温度調節(細孔壁と水分子クラスターの相互作用)の二点が特に同位体選択性に重要と言うことができる。1 そこで機構のより詳細解明に立ち戻り、細孔内部の水分子クラスター状態の安定性を検討するため、図4に示すCu2+イオンと5-メチルテレフタル酸からなる錯体結晶を用いた。この錯体結晶はH2O分子を吸着すると図4(a)に示すように水分子の四量体を形成する。2一方D2O吸着相ではその結晶構造は明らかとなっていないが、25℃における飽和蒸気圧での総吸着量はH2Oと大きく変わらないことから同様に四量体を作るものと考えられる。これらH2O相、D2O相についてDSC測定をおこなうと(図4(b))、水クラスターの転移に伴うピークがD2O相のほうが4~5℃高くなることがわかった。これは内部の水分子が同位体ごとに異なる安定化を受けていることに起因する。 以上これまでの研究で既存の多孔性材料は困難である水同位体ガスの選択的認識、分離を金属錯体の一部で実現した。またその選択性は細孔中の水クラスター形成機構に密接に関連していることを示した。 3. 今後の展開 本成果を元に、より明確な分離特性を示す錯体構造を結晶データベース+計算といった材料スクリーニングからも検討を進める。また得られた材料を利用し、様々な同位体混合ガスや混合溶液からの選択的抽出能についても評価を行う。 4. 参考文献 1. P. D. Dietzel, R. E. Johnsen, R. Blom and H. Fjellvag, Chem. Eur. J., 2008, 14, 2389-2397. 2. R. Q. Zou, H. Sakurai, S. Han, R. Q. Zhong and Q. Xu, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 8402-8403. 5. 連絡先 606-8501 京都府京都市左京区吉田本町 京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 TEL: 075-753-9847 Email: horike@icems.kyoto-u.ac.jp−31−

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