2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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水素同位体ガス分離に向けた錯体結晶の開発 京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 准教授 堀毛 悟史 1. 研究の目的と背景 様々な同位体が含まれた混合ガスから、ある種のみの同位体を分離する化合物や技術は、新燃料の創出、MRI標識化、シリコンLSI処理などの様々な用途において非常に重要である。一方で同位体同士は近い物理特性を持ち、分離は一般的に困難である。ガス分離においては様々な方法が知られているが、その一つである多孔性固体材料を用いた吸着分離は、もし高い選択性を有する材料を合成できればエネルギーをかけず取り扱い容易にガス分離が可能となるため有用である。 本研究では既存の多孔性材料では難しい混合同位体ガス、特に水素同位体ガス(例えばH2/D2/T2やH2O/D2O/T2O)の分離を実現する新規固体材料を合成し、それらガス分子を認識し高性能の分離特性を得ることを目標とした。 2. 研究内容 上記目標を実現するため、本研究では錯体結晶材料(以下、錯体結晶)のガス吸着現象を用いることとした。錯体結晶とは金属イオンと架橋性有機分子から組みあがる結晶性構造体であり、様々な多孔性構造設計が可能である。ターゲットとする水素同位体ガスを精密に分離するため、錯体結晶の持つ「1 nm以下の空間構造」の多様性に着目し、分子認識的に同位体を分離する材料設計を行った。 ラボレベルの実験施設では安全上の理由から主にH2O、D2O、H218Oガスの分離において検討がまず可能であったことから、これらガスの分離特性を有する錯体結晶の合成と評価を進めた。錯体結晶合成においては主に水熱合成により微結晶粉末を合成し、それらを活性化した後ガス吸着、分離評価へ展開した。また吸着特性においては主に298 Kにおける上記水同位体ガスの吸着等温線を測定することにより特性を検討した。 これら同位体水分子はテーブル1に示すようにほぼ同じパラメータを取るため、既存の多孔性材料でこれらを認識し、選択的に取り込むことは難しい。実際汎用的な多孔性炭素材料(活性炭)やゼオライト(F-9)を用いると得られるガス等温線はほぼ完全に同じプロファイルとなり、どれか一つの同位体を認識・分離することは難しい。 水分子の吸着質としてのサイズは約0.4 nmであるため、このサイズに適合した様々な錯体結晶を合成し、蒸気吸着測定を行った。その検討の中からいくつか例と成果を まず[Al(1,4-benzenedicarboxylate)(OH)]、および[Al(2,6-naphthalenedicarboxylate)(OH)]の組成で表される1 nm以下の一次元の細孔径を有する錯体結晶二種類を合成し、H2O、D2O、H218Oの蒸気吸着測定を298 Kにおいて行ったところ、図1に示すようにほぼ同様の吸着等温線を示し、分離特性としての性能は示さなかった。 そこで同じ一次元細孔構造でありながら、細孔内部の静電相互作用がより強い[Fe2(dobdc)], (dobdc4− = 2,5-dioxidobenzene-1,4-dicarboxylate) (図2a)を用い同様の測定を行った所、図2bに示すように、低圧(0.1 kPa付近)まではそれぞれ同様の吸着等温線であるが、その後D2Oのみより高い吸着量を示すことが分かった。高圧側(3 kPa付近)ではいずれの同位体水分子においても同様の吸着量で飽和することから、最終的な吸着メカニズムは同様と考えられるが、1~2 kPaの圧力範囲で明確な吸着モードの違いが観測された。これはわずかに沸点の高いD2Oが細孔内部である圧力に到達した時点で(ここでは0.5 kPa)他の同位体と比べより協働的に内部に取り込まれる中間状態を有しているためであると考えている。 −30−発表番号 15〔中間発表〕

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