2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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とジシアノエテノ基で架橋された二量体が得られることを見出した。従来HBCは光照射により発光を示さない。一方、今回合成した二量体は溶液中で優れた発光を示すことを明らかにした。さらに、固体でも優れた発光を示し、溶液中よりも高い量子収率を示すことを見出した。これは通常分子が凝集すると発光が弱くなることと逆の現象である。さらに、この固体をこすると発光色が黄色からオレンジへ変化する、いわゆるメカノクロミズムを示すことを明らかにした(図2)。これは広いπ平面をもつ多環芳香族炭化水素が発光性メカノクロミズムを示すことを見出した初めての例である。 図2.HBC二量体とメカノフルオロクロミック特性(3)結合切断機構による近赤外メカノクロミック多環芳香族炭化水素の合成[6]ジシアノメチル基をもつHBCを中性条件で酸化することによりテトラシアノメチレン基で架橋された二量体を得ることができた。この分子は発光性を示さない。しかし、固体をこすることで色が変化するメカノクロミズムを示すことを見出した。吸収スペクトル測定の結果、機械刺激により近赤外領域に新たな吸収が立ち上がることを明らかにした。通常、メカノクロミズムは刺激により吸収波長が全体的に移動する。この違いを明らかにするために磁気測定を行ったところ、機械刺激により結合が切断され、スピンが創出し、新たな吸収が発生することを突き止めた(図3)。このようにマクロな機械刺激が分子の結合切断に関わる現象は珍しく、分子にかかる力の解明につながる重要な成果と言える。 図3.HBC二量体の(a)構造式、(b)X線構造、(c)メカノクロミズムに伴う固体色の変化 3. 今後の展開 今後は他の多環芳香族炭化水素に本研究で開発した手法を応用し、共役を切断することによるスピンの創出や、元来の目的である反芳香族積層分子の創出を行っていく予定である。 4. 参考文献 [1] D. T. Chase, B. D. Rose, S. P. McClintock, L. N. Zaknarov, M. M. Haley, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 1127-1130. [2] R. Yamaguchi, S. Hiroto, H. Shinokubo, Org. Lett. 2012, 14, 2472-2475. [3] R. Yamaguchi, S. Ito, B. S. Lee, S. Hiroto, D. Kim, H. Shinokubo, Chem. Asian. J. 2013, 8, 178-190. [4] R. Yamaguchi, S. Hiroto, H. Shinokubo, Chem. Lett. 2014, 43, 1637-1639. [5] K. Oda, S. Hiroto, I. Hisaki, H. Shinokubo, Org. Biomol. Chem. 2017, 15, 1426-1434. [6] K. Oda, S. Hiroto, H. Shinokubo, J. Mater. Chem. C 2017, 5, 5310-5315. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 電話番号:052-789-4584 E-mail: hiroto@chembio.nagoya-u.ac.jp ArArArArArNCArArArArArCN ArArArArArCNCNArArArArArCNCN(b)before grindingafter grindingCH2Cl2 drop(c)(a) −29−

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