2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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フェノールの酸化反応を利用した積層型反芳香族性化合物の合成と 物性追求 名古屋大学大学院工学研究科助教 廣戸聡 1. 研究の目的と背景 反芳香族化合物はHOMO-LUMOギャップが狭く、酸化・還元が容易であることから次世代の機能性材料として注目されている。しかしながら、数多の試みにもかかわらず反芳香族性に起因する不安定性からその物性探索はおろか、合成法すらまともに確立されていないのが現状である。その中で、反芳香族化合物を積層すると電子が非局在化し安定化するという理論的予測が報告された。そこで、本申請研究でははじめから積層させることで安定化された反芳香族シクロファンの合成を目標とした。合成だけでなく、物性を詳細に精査することで反芳香族化合物の性質を明らかにするほか、積層されたことによる独自の機能を引き出すことを目的に研究を行った。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 本研究では、既存の分子への官能基導入および酸化から新たな分子を切り出すことで新たな物性の創出を目指した。まず、(1)様々な官能基をもつインデノフルオレンの合成を達成し、さらにπ拡張したインデノフルオレンを合成する新規ルートを開拓した。(2)多環芳香族炭化水素を基質とした官能基変換による不安定化学種の創出法の開発を目指した。種々検討の結果、機械刺激によって光物性を変化させる機能性の創出に成功した。以下に具体的な内容について示す。 (1)π拡張インデノフルオレンの新規合成法の開発基質として弱い反芳香族性を示しかつ合成が容易なインデノフルオレンを選択した[1]。既存の手法に従い、臭素基を二つもつインデノフルオレンを合成し、さらに遷移金属触媒反応を用いることで2,8位にヒドロキシ基をもつインデノフルオレンの合成に成功した。しかしこの酸化では、反応が位置選択的に進行したものの、積層型ではなく直線状の二量体が得られる結果となった。そこで、官能基の導入位置を検討した。その結果4,10位にヒドロキシ基、およびアミノ基を導入した類縁体の合成に成功したが、これらの酸化では反応が進行しないか、反応の位置選択性が乏しく複数の生成物が得られる結果となり、目的の積層型分子は得られない結果となった。そこで、反応の位置選択性の制御を目的にπ拡張したインデノフルオレンの合成に着手した。従来法では濃硫酸中の加熱等、厳しい条件が必要であるため、使用できる基質が限られていた。それに対し、ロジウム触媒による縮環反応を用いることにより温和な条件でインデノフルオレンを合成できるルートを確立した(図1上)。この手法により、π拡張したインデノフルオレンの合成に成功し、吸収スペクトルが近赤外領域まで達することを明らかにした(図1下)。このルートを用いることでこれまで合成できなかったインデノフルオレン類縁体が合成できるようになると期待できる。 RRCOOHCOOHOMeOMeOMeOMeRh cat.Piv2O0.60.40.20.0Abs.800700600500400300Wavelength (nm)UV/vis absorption spectrum of 11 図1.官能基化インデノフルオレンの酸化とπ拡張インデノフルオレンの合成(2)発光性メカノクロミック多環芳香族炭化水素の合成[5]上記の結果を受け、酸化反応による結合切断条件の検討を並行して行った。基質として容易に合成可能かつ種類の豊富な多環芳香族炭化水素を用いた。特に広い平面による不安定な化学種の安定化を期待し、ヘキサベンゾコロネン(HBC)を主に使用した。我々はすでにHBCへの位置選択的官能基化手法を確立している[2-4]。これを足がかりにジシアノメチル基を導入したHBCの合成に成功した。さらに、この分子を塩基性条件下で酸化する−28−発表番号 14〔中間発表〕

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