2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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超分子錯体形成を駆動力とする凝集誘起型発光現象の探索 北海道大学大学院理学研究院助教 小門憲太 1. 研究の目的と背景 凝集誘起型発光(Aggregation-Induced Emission、AIE)は、固体状態や凝集状態で有機発光色素の発光強度が増大する現象であり、2001年のTangらの報告以降、精力的に研究が進んでいる分野である[1]。しかし、その詳細な機構は明らかではない。一般的な設計指針としては、分子内回転運動を起こしやすいフェニル基のような置換基をπ電子系に集積させるとAIE特性が発現することが経験的に知られており、ヘキサフェニルシロールやテトラフェニルエテン(TPE)と言った化合物がAIE特性を示す典型例として報告されている。しかし、凝集を形成した時以外に発光強度が増大する例は、冷却や凍結を除くとほぼ報告されておらず、発光センサーとして用いられている報告でも、検出対象である生体分子などと会合して結果的に凝集を形成して発光している例しかない。本研究では、従来の「凝集を形成させて発光を得る」手法ではなく、さまざまな超分子的相互作用を駆使して発光を得ることで、AIE特性の本質を明らかにすることを目的とした。具体的には、AIE色素として代表的であるテトラフェニルエテン(TPE)骨格を選択し、1. 金属錯体、2. 液体、3. ネットワークポリマー、4. 共結晶、などの系に亘ってAIE色素を導入し、発光特性を詳細に調査した。 2. 研究内容 2.1 金属錯体 TPEに金属イオンと錯形成する配位子を側鎖として導入したTPE-4bpyを合成し、配位子と金属イオンの錯形成を利用した分子運動の制限を試みた(図1a)。発光スペクトル測定の結果、バルク状態と良溶液中では大きく異なるスペクトルが得られ、バルク状態では長波長側に発光極大を1点のみ示したのに対し、良溶媒中では短波長側に極大点を複数示した。ここで、バルク状態では凝集発光、良溶媒中ではモノマー発光を示していると考えられる。また、通常AIE分子は良溶媒中では消光するが、TPE-4bpyは良溶媒中でも発光していた。これはTPE骨格にビピリジンの様な嵩高い置換基が導入されたことで、良溶媒中などの分散状態における無輻射失活が阻害されたためと考えられる。TPE-4bpy/メタノール希薄溶液(10 μM)に対し各金属イオンを加え、加えた化合物の吸収・発光スペクトルを評価した(図1b)。その結果、Al3+を加えた際に発光極大の長波長シフトが観測された。また、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Pt4+などの遷移金属イオンを加えた際に消光した。また、Al3+以外の典型金属イオンでは特に変化が見られなかった。以上の結果、発光の変化が観測されたイオン種ではTPE-4bpyとの錯形成が起こっていると考えられ、遷移金属錯体では吸収したエネルギーが無輻射過程の支配的なd-d遷移に移動することで消光したと考えられる。Al3+錯体ではこのような消光が見られず、発光が長波長シフトして観察されたと考えられる。 図1TPE-4bpyの(a)分子構造と(b)発光特性。 2.2 液体 TPEに長鎖アルキル基を導入することで液体化し、その発光特性に関して検討を行なった。エーテルタイプの分子(1a、1b)とエステルタイプ(2a、2b)の分子を合成したところ、エーテル型の結合はエステル型のものより液体となりやすく、長波長で発光し、発光量子収率(ΦF)が高くなる傾向があることが分かった(図2a)[2]。この原因を探るため、モデル化合物である1me、2meの単結晶を作製し、その結晶構造を比較したところ、隣接分子との相互作用形式が大きく異なることが分かった(図2b)。具体的には、2meでは4つのエステル基が効果的に隣接分子と水素結合を形成し、TPE 部位が中心のC=C結合の面外方向にそのまま積み重なった構造を取るのに対し、1meでは水素結合が弱いので中心のC=C結合の面内方向に隣接分子が存在する構造を取ることが分かった。 液体であることの特徴として、他の有機分子との混和性が高いことがあげられる。これを証明するため、赤色−26−発表番号 13〔中間発表〕

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