2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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出され,高分子や血漿タンパク質に吸着しやすい物質のみが循環流路にとどまる. マイクロポンプよって溶液をチップ内で循環させることにより,低分子化合物のみが選択的に排出されていくことを確認し,残留性の異なった抗がん剤に対してすでに知られている性質と一致した実験結果を得ることに成功した. Dialysate channel循環流路透析(腎小体)タンパク質透析流路低分子透析膜透析流路①②ポンプ(心臓)培養槽(標的細胞)循環流路(血管)空気圧観察図2マイクロ循環器モデルの模式図 図2循環器モデルの模式図 血管モデルの開発 薬剤の体内分布に関わる筋肉や脂肪組織,ドラッグデリバリーに関わる末梢組織のモデル化をめざし,毛細血管網を有した筋肉や脂肪などの三次元組織,抗がん剤の患部移行性に重要な間質ゲル中での毛細血管網の構築を試みた. 脂肪前駆細胞もしくは筋芽細胞にフィブロネクチン及びゼラチンの多層ナノ薄膜コーティングを施し,ヒト初代血管内皮細胞とマイクロチップ内で積層共培養を行った.その結果,脂肪前駆細胞,線維芽細胞と血管内皮細胞の混合共培養において血管内皮細胞の顕著な伸展が見られたものの,物質輸送に用いることができるような管状構造の構築は見られなかった. また,ECMゲルを担持した状態で細胞培養可能なマイクロ流体デバイスとして,連続する柱状構造に仕切られた3つの流路をもつデバイスを設計,作製した(図3).このゲル中でヒト初代血管内皮細胞を培養したところ,細胞が伸展している様子が見られた.共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ,ゲル中で三次元的に血管内皮細胞が管状のネットワークを形成している様子が観察できた. 図3血管網培養のためのゲル充填チップ 3. 今後の展開 これまでに薬物動態の主要過程のうち,吸収,代謝,排泄の過程についてバイオアッセイするモデルを開発し,さらに分布過程のモデルとしての筋もしくは脂肪組織モデルの開発,薬物送達に関わる血管モデルの開発などに取り組んできた.これまでに開発してきたマイクロ組織は血管内皮細胞を除き,株化細胞を用いて構築してきたが,株化細胞では正常組織と比べてごく一部の機能しか発現しておらず,モデル構築のためには不十分である.実際の人体と同様の応答を得るためには,ヒト由来正常初代細胞を分化状態を保ったまま培養することが求められ,一部取り組みを始めている.しかし,ヒト正常細胞は極めて高価であり,安定的に入手し,培養することが難しい細胞も多い.従って,実用的なマイクロデバイスの実現には,デバイスの設計だけでなく,優れた細胞の入手と培養法の確立が欠かせない.将来的にはiPS細胞やES細胞から増殖・分化させた組織を利用することにより,より多くの臓器を集積化させた,よりヒトでの応答に近い結果を示すマイクロ人体モデルを構築することができると期待される. 4. 参考文献 Y. Imura, K. Sato, E. Yoshimura, Anal. Chem., 82, 9983 (2010). Y. Imura, E. Yoshimura, K. Sato, Anal. Sci., 28, 197 (2012). Y. Imura, E. Yoshimura, K. Sato, Anal. Chem., 85, 1683 (2013). Y. Sakuta, K. Tsunoda, K. Sato, Anal. Sci., 33, 391(2017). 5. 連絡先 佐藤 記一kiichi.sato@gunma-u.ac.jp 〒376-8515 群馬県桐生市天神町1-5-1 群馬大学 理工学府 分子科学部門 −25−

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