2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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マイクロシステムと細胞工学の融合によるマイクロ人体モデルの開発 群馬大学 大学院理工学府准教授 佐藤記一 1. 研究の目的と背景 薬物動態の解析では,分子レベル,細胞レベルの実験に加えて,動物実験が多用されてきた.しかし,動物実験は近年削減傾向にあり,その代替となる解析手法が必要とされている.それに対し最近,マイクロチップと呼ばれる手のひらサイズのデバイス上に臓器機能を集積化させたOrgan-on-a-Chipとよばれるデバイス開発が世界的に進められている. マイクロチップとは,ガラスやポリマー製の数cm角の基板内部に数百µmオーダーの流路を作製し,その中に溶液を流しながら化学・生化学プロセスをおこなうものであり,分析化学をはじめ,様々な分野で世界的に研究が進められている.このチップ内部に各種臓器に由来する細胞を培養し,臓器機能の模倣をめざしたのがOrgan-on-a-Chipであり,これまでに肺,肝臓,小腸など,いくつかの臓器についての開発例が報告されている.これらの臓器モデルは薬の候補物質が各臓器からどのような作用を受けるのか,あるいは逆に各臓器にどのような影響を与えるかを分析するために用いられる.つまり,各臓器が関わる薬物動態や各臓器に対する薬理作用や副作用をバイオアッセイすることが可能となる. この考え方を発展させて,複数の臓器や器官の機能を集積化した,バイオアッセイのためのマイクロ人体モデルBody-on-a-Chipの開発が,世界中の複数の研究チームで進められており,近年注目されている.これは薬物動態に関わる各種臓器・器官の機能を集積化し,それを血管に見立てた流路で結んだものであり,実現すれば1回の試験であらゆる薬物動態の過程を考慮に入れた薬剤候補物質のバイオアッセイを行うことが可能となる.本研究ではこれらの過程に関わるマイクロモデルの開発を試みた. 2. 研究内容(実験、結果と考察) 消化吸収代謝モデルの開発 複数の臓器機能を集積化したマイクロデバイスとして,胃,十二指腸,小腸,肝臓の機能を組み込んだチップ上にがん細胞を培養したシステムを開発した.このシステムでは,チップの入口から導入した抗がん剤の候補化合物は,まず人工胃液,続いて人工腸液による作用を受け,その後小腸上皮のモデル細胞株Caco-2によって吸収されて,血管に見立てた別の流路へ移行する.その後,肝細胞のモデル細胞株Hep-G2を培養した部分を通過させることにより代謝させたのち,乳がん由来細胞株MCF-7に作用させる(図1).この仕組みを実現するため,Caco-2細胞は表面修飾を施した多孔質膜上に培養し,Hep-G2細胞は細胞数を増やすためにマイクロキャリア上に培養し,チップに充填して用いた. このチップを用いると,人工胃腸液によって分解されず,Caco-2細胞によって吸収されやすく,Hep-G2細胞によって分解されにくいあるいは活性化される物質のみがMCF-7細胞に対する抗がん活性を示すことになり,実際に抗がん剤を用いてアッセイした結果,すでに知られている性質と一致した実験結果を得ることに成功した. 図1消化吸収代謝モデルの模式図 循環器モデルの開発 体内に吸収された薬剤は,体内循環しながら標的へと作用し,腎小体での限外ろ過により排出され,その一部が尿細管で再吸収されつつ,体外へと排泄される.この過程に注目し,チップ内に腎排泄を含めた循環器系の機能を模倣したマイクロ腎排泄モデルを開発した. 腎排泄機能を模倣するため,循環流路に心臓,腎小体のモデル部位および薬剤の標的細胞を配置したチップを作製した(図2).マイクロ腎小体モデルには透析膜が設置されており,低分子のみが外部の透析流路へと排−24−発表番号 12〔中間発表〕

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