2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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電位測定モードに関しても、同様にLiFePO4の2次粒子の上で一定の電位が観察されたが、活物質の露出していない部分では、分極電極と同様に一定の電位を観察することができなかった(図3)。また、活物質上で充放電特性を評価し、その電荷量から反応している領域を見積もると半径57 nmの半球と同じ体積となり、計測中に測定溶液がほとんど試料に浸み込まず、一定の反応領域の計測が可能であることが分かった。そのため、浸み込みの影響ではなく、露出した試料の電気化学特性を定量的に議論することが可能である。 図3 LiFePO4合剤電極の形状と電位イメージ イメージサイズ 15×15 µm 局所表面改質 走査型プローブ顕微鏡の特徴として、マニュピレーションがあげられる。SECCMでは、局所充電により表面の電位を局所的に制御することができる。実際に電位が800 mV vs Ag/AgClに達するまで局所充放電を行った後に、電位イメージングを行った結果を図4に示す。局所充電を行った領域において高い電位が観察された。電解液に浸漬していない試料内では、Liイオンが2次粒子間を移動することができない。このように溶液に試料を浸さずに局所的な充電が可能であることから、活物質内のLiイオン伝導度の定量評価が可能である。 図4 LiFePO4合剤電極上の局所充放電と電位イメージ イメージサイズ 25×25 µm LiFePO4合剤電極の充放電特性イメージング 充放電特性をマッピングするため、+5 pAの定電流を印加した際の電位変化を計測した。一点当たりの計測時間は、600 msほどであり、すべての計測が終了したのちに、データを画像化することで、10 ms/imageで電位が変化していく様子を可視化した。イメージングの結果を図5に示す。充放電特性マッピングモードにおいても、露出したLiFePO4の2次粒子上と2次粒子が露出していない部分で異なる応答がみられた。これは、LiFePO4が露出していない部分が、分極性の電極と同様のふるまいを示したためと考えられる。実際にLiFePO4の2次粒子であることを確認するため、SECCMで計測した領域をSEMとEDSにより評価すると、LiFePO4の2次粒子由来の酸素のシグナルをEDSにより確認することができた。このように、SECCMの開発により、充放電の起こる領域と時間を計測者側で制御することが可能であり、各点で充放電を行いながらイメージングを行うことで、充放電特性のマッピングを実現した。 図5 LiFePO4合剤電極の充放電特性イメージ イメージサイズ 30×30 µm 3. 今後の展開 薄膜技術を利用して、結晶表面の方位が厳密に制御された試料や、結晶粒界におけるイオン伝導性や、反応性の評価、活物質の固溶反応と充放電のレートの関係や、活物質の粒径の違いによる充放電特性の違いなど、これまでインピーダンス計測では、評価が困難な材料そのものの物性や、材料中に生じる構造と電池特性の関係を調査する予定である。 4. 参考文献 Y. Takahashi, A. Kumatani, H. Munakata, H. Inomata, K. Ito, K. Ino, H. Shiku, P. R. Unwin, Y. E. Korchev, K. Kanamura and T. Matsue, Nat Commun, 2014, 5. Y. Takahashi, A. Kumatani, H. Shiku and T. Matsue, Anal. Chem., 2017, 89, 342-357. 5. 連絡先 住所:〒920-1192 石川県金沢市角間町 金沢大学自然科学研究科2号館2A316号室 電-番号:076-234-4866 Email:yasufumi@se.kanazawa-u.ac.jp −21−

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