2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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走査型プローブ顕微鏡とイオン伝導計測技術の融合による イオン伝導パスの可視化技術の創成 金沢大学理工研究域電子情報学系 准教授 高橋 康史 1. 研究の目的と背景 リチウムイオン2次電池(LIB)は、粉末合剤を集電体に塗布して作製されており、電子抵抗、イオン伝導経路が不均一であり、欠陥、被膜、電流密度などの三次元的な分布が電池の高性能化を妨げている。これらが蓄電性能に与える影響は未解明であり、従来まで電池製造におけるノウハウにより解決されてきた。 電池材料表面の分析として、一般的なX線技術やラマン分光、IR測定は、劣化前後での電池の状態をスナップショットで捉えるものであり、その場観察技術の開発が喫緊の課題とされている。走査型プローブ顕微鏡では電池を機能させながら計測を行うオペランド計測が可能であり、オークリッジ国立研究所・Kalininらは、原子間力顕微鏡(AFM)と電気化学計測を組み合わせてシステムを開発した(Nat. Nanotech.,(2010) )。しかし、AFMのプローブでは、電子伝導性は評価可能であるが、イオン伝導度を評価することはできない。 電池材料の局所的な充放電特性を評価するには、充放電を行う領域を測定者側で制限する必要がある。そこで、独自開発した走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を用い、電池材料表面でのLiの挿入脱離を可視化した。SECCMでは、局所的に電解液と電池材料界面を形成するため、ナノピペット(開口径100 nm)に電解液を充填したものを試料表面に接触させる(図1)。このことで、アトリットルスケールの電気化学セルを形成する。電気化学セルを形成しながらピペットを走査させることで、Liの挿入脱離に伴う電流や充放電統制をマッピングが可能である。このSECCMにより、LIBの正極材料であるLiFePO4の充放電特性の電気化学的な評価とイメージングを行った。 図1 SECCMの概要図 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 実験 走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM) ナノピペットに電解質溶液(3 M LiCl)を充填し、Ag/AgCl線を挿入したものをプローブとして用いた。試料であるLiFePO4に電圧を印加(+0.65 V vs. Ag/AgCl)し、ナノピペットをLiFePO4にアプローチさせる。ナノピペットがLiFePO4とメニスカスを介して接触した際にLiFePO4から検出される充電電流をトリガーとして、ナノピペットのアプローチを停止させる。この際に、ナノピペット-試料間に形成されるアトリットルレベル(半径50nmほどの半球状)のメニスカスを、電気化学セルに利用して、Li+の充放電や、CV測定を行った。また、ナノピペットを走査しながら電気化学測定を行うことで、形状情報とともに、LiFePO4表面でLiの脱挿入に伴う電流や電位のマッピングを行った。 結果と考察 LiFePO4合剤電極の電流・電位イメージング LiFePO4/アセチレンブラック/PVDF結着剤を含んだ合剤の正極材料表面において、電流イメージングを行った結果を図2に示す。形状イメージから直径10 µmのLiFePO4の球状の2次粒子が露出している部分が明確に確認でき、電流イメージでは、対応した領域において酸化・還元電流が観察された。さらに、計測後に2次粒子が露出している部分と、露出していない部分にナノピペットを配置し、CV測定を行うと、2次粒子が露出している部分にナノピペットを配置したときのみLiイオンの挿入脱離に伴う酸化・還元電流が観測された。 図2 LiFePO4合剤電極の形状と電流イメージ イメージサイズ 20×20 µm 顔写真 25mm× 30mm程度 −20−発表番号 10〔中間発表〕

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