2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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す赤血球のタンパクバンドを質量分析装置により解析したところ、Band 3、a-spectrin、b-spectrin、b-actinが同定された。 肺炎球菌が赤血球に侵入する際の膜構造の変化についてはこれまでに明らかとなっていない。侵入機構について形態的な解析を行うため、大阪大学 超高圧電子顕微鏡センターの支援のもと、肺炎球菌の感染した赤血球について電子線トモグラフィー解析を行った。電子線トモグラフィー解析の結果、赤血球に侵入した肺炎球菌はエンドソームなどの膜に包まれること無く細胞質中に存在していることが示唆された(図3)。 図3 超高圧電子顕微鏡による赤血球に侵入した肺炎球菌の観察 最後に、鉄イオンキレーターの投与がin vivoにおける肺炎球菌の生存に及ぼす影響を検討した。これまでの研究において、ヒトの血液から分離した赤血球に鉄イオンキレーターを添加した場合、赤血球と混和した肺炎球菌の生存率は大きく増加した。まず、マウスの赤血球において同様の結果が認められるかを確認したところ、肺炎球菌とマウス赤血球を混和した際の増殖率は、ヒト赤血球を用いたときと同様に、鉄イオンキレーターの添加によって大きく上昇することが示された。次に、in vivoにおいて、赤血球の鉄イオンが肺炎球菌の生育に与える影響を調べるため、鉄イオンキレーター投与マウスを用いた感染実験を行った。感染実験の結果、鉄イオンキレーターを血中に投与したマウス群ならびにコントロール群で、肺炎球菌感染によるマウスの生存率は有意な差が認められなかった(図4)。このことから、赤血球による鉄イオン依存性の肺炎球菌増殖抑制に対して、肺炎球菌が生体内で抵抗性を持つことが示唆された。 図4 鉄イオンキレーター投与による肺炎球菌感染マウスの生存率の比較 3. 今後の展開(計画等があれば) 本研究によって、赤血球と結合する肺炎球菌の複数のタンパク質を同定した。一方で、過去の研究で赤血球侵入に寄与する可能性が示されていたLPXTGモチーフを含む細胞壁架橋タンパク質は検出されなかった。今後の展望として、細胞壁架橋タンパク質群が赤血球に結合するかどうかを検討する。さらに、肺炎球菌のタンパク質と赤血球分子の相互作用により、菌が赤血球内へ侵入するメカニズムの解明を試みる。 赤血球による鉄イオン依存性の肺炎球菌増殖抑制に対して、肺炎球菌が生体内で抵抗性を持つことが示唆されたことから、宿主分子を利用した肺炎球菌の増殖抑制回避機構の解明を目指す。これらの解析を行うことにより、血液中における肺炎球菌能動態の解明ならびに新たな治療や診断手法の基礎の確立につながると考える。 4. 参考文献 [1] Yamaguchi M., Terao Y., Mori-Yamaguchi Y., Domon H., Sakaue Y., Yagi T., Nishino K., Yamaguchi A., Nizet V., Kawabata S. PLoS One, Vol. 8. e77282. 2013 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1−8 大阪大学 大学院歯学研究科 口腔細菌学教室 06-6879-2897 yamaguchi@dent.osaka-u.ac.jp −19−

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