2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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肺炎球菌と赤血球間の相互作用において菌体表層タンパクが果たす役割の解明
 大阪大学 大学院歯学研究科 口腔細菌学教室助教 山口雅也 1. 研究の目的と背景 肺炎は、高齢者の罹患率が高い感染症であり、日本において死亡原因の第3位を占めている。肺炎球菌は肺炎の主たる起因菌であり、グラム陽性菌において黄色ブドウ球菌と並び、菌血症・敗血症よりもっとも頻繁に分離される菌の一つである。肺炎球菌による感染症が敗血症などの侵襲性の病態に進展する過程においては、菌が定着したのちに血管内へと移行し、宿主の免疫機構を回避して増殖する必要がある。しかし、肺炎球菌の血液中における動態や、病態の重症化機構については不明な部分が多い。我々はこれまでに、肺炎球菌が赤血球に侵入し、抗生物質や宿主の自然免疫による殺菌を回避することを世界で初めて明らかにした [1]。 肺炎球菌と赤血球の相互作用は、感染の成立過程で重要な役割を果たしている可能性があるが、付着または侵入機構の詳細については明らかとなっていない。そこで本申請研究では、赤血球と肺炎球菌の相互作用の分子生物学的な解明を行うため、赤血球と結合する肺炎球菌の菌体表層タンパク質の同定を試みた。次に、同定した菌体表層タンパク質と結合する赤血球側の因子の同定を行った。さらに、形態的な解析を行うために、超高圧電子顕微鏡を用いた肺炎球菌と赤血球のトモグラフィー像の観察を行った。また、赤血球に含まれる鉄イオンが肺炎球菌の増殖を抑制することから、鉄イオンキレーターの投与がマウスモデルにおける病原性に及ぼす影響を検討した。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 肺炎球菌R6株の菌体表層タンパク質を電気泳動にて展開し、リガンドブロット法によってビオチン標識した赤血球の表層タンパク質と結合する分子を検索した。質量分析にて、結合を示す肺炎球菌のタンパクバンドを解析したところ、DnaK、FusA、a-Enolaseと同定された(図1)。続いて、同定された肺炎球菌のタンパク質について、大腸菌を用いた組換えタンパク質を作製した。得られた組換えタンパク質を蛍光標識し、液相にて赤血球と結合するかどうかを、フローサイトメーターによって組換えタンパク質と反応させた赤血球の蛍光強度を測定することで解析した。その結果、DnaK、FusA、a-Enolaseは濃度依存的にヒト赤血球に結合することが示された(図2)。 図1 赤血球と結合する肺炎球菌のタンパク質 図2 肺炎球菌のDnaK, FusA, a-Enolaseは濃度依存的に赤血球に結合する さらに、赤血球側の肺炎球菌結合分子の同定を行った。赤血球の膜タンパク質を電気泳動にて展開し、リガンドブロット法を用いてビオチン標識した肺炎球菌の赤血球結合タンパク質と結合する分子を検索した。結合を示 −18−発表番号 9〔中間発表〕

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