2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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検出できたことから(図2), 全身獲得抵抗性誘導により2bのオートファジーによる分解が促進されることが示唆された. さらに本研究でrgs-CaMが免疫受容体としてサリチル酸シグナリングを誘導することをウイルスRSSであるCMV 2bとクローバ葉脈黄化ウイルスのHC-Proを恒常的に発現する形質転換植物を用いて明らかにした. 通常, これらのRSS発現タバコではサリチル酸シグナリングが誘導されていることの指標となるPR1aは発現していないが, カルシウムイオン(Ca2+)の流入を起こすイオノフォアA23187を葉にインフィルトレーションして24時間後にはPR1aの発現が誘導された(図3). このPR1aの発現誘導は, RSSを発現する形質転換植物中のrgs-CaMの発現をRNAサイレンシングにより抑制すると弱くなった. これらの結果から, rgs-CaMは免疫受容体として働き, ウイルスRSSとCa2+に結合, 感知することを介して, タバコはサリチル酸シグナルを誘導することが明らかとなった. 全身獲得抵抗性はサリチル酸シグナリングで誘導されることを考慮すると, rgs-CaMはウイルス感染時にRSSとCa2+を認識して誘導するサリチル酸シグナリングを介して, 自身によるウイルス感染阻害機能, すなわちRSSをオートファジーによる分解に導く機能を自己活性化していることが考えられた. これらの結果をもとに全身獲得抵抗性が誘導された植物におけるCMV抵抗性が増強されるメカニズムのモデルを考えた(図4). 全身獲得抵抗性が誘導されていないタバコでは, rgs-CaMはCMVの感染を阻害するようには働かないが, CMV 2bとCa2+を感知してサリチル酸シグナリングの誘導, すなわち全身獲得抵抗性の誘導に貢献する. 全身獲得抵抗性の誘導されたタバコでは, CMVの感染は, rgs-CaMが2bのオートファジーによる分解を誘導し, 結果としてRNAサイレンシングによるウイルス防御機能を強化して, サリチル酸シグナルで誘導される他のウイルス防御機構と協働してCMV感染を効果的に阻害していると考えられる. 3. 今後の展開 タバコのrgs-CaMのオーソログやパラログと思われるカルモジュリン様タンパク質をコードする遺伝子のシロイヌナズナ変異体やゲノム編集によりノックアウトしたトマトを用いて, rgs-CaMを介した全身獲得抵抗性やrgs-CaMの免疫受容体としての機能についてさらに詳細な分子メカニズを進めていく. 4. 参考文献 Nakahara KS, Masuta C, Yamada S, Shimura H, Kashihara Y, Wada TS, Meguro A, Goto K, Tadamura K, Sueda K, Sekiguchi T, Shao J, Itchoda N, Matsumura T, Igarashi M, Ito K, Carthew RW, Uyeda I., 2012. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109:10113–10118. 5. 連絡先 〒060-8589 北海道札幌市北区北9条西9丁目 北海道大学大学院農学研究院 Phone 011-706-2490 Email knakahar@res.agr.hokudai.ac.jp Home page http://plantvirus.lsv.jp/wordpress/ BTHBTH+ ConcAWT2bHC-ProPR1arRNAA23187CPウイルス感染増殖の阻害オートファジーにより分解rgs-CaMウイルス二次感染RNAサイレンシングによる防御RSSCa2+SA仲介防御全身獲得抵抗性誘導後子孫ウイルスSAシグナルの誘導rgs-CaMウイルス(CMVなど)一次感染RNAサイレンシングによる防御RSSCa2+SA仲介防御サリチル酸(SA)シグナル全身獲得抵抗性誘導前図2 全身獲得抵抗性の誘導によるCMV 2bのオートファジーによる分解の促進. BTH投入1時間後に免疫染色.オートファジー阻害剤コンカナマイシンA(ConcA) 図3 ウイルスRSS(2bとHC-Pro)とイオノフォアA23187によるCa2+流入を感知して導かれるサリチル酸シグナリング(PR1a) 図4 全身獲得抵抗性誘導前後のrgs-CaMを介したウイルス防御メカニズム −17−

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