2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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カルモジュリン様受容体とウイルスのRNAサイレンシング抑制タンパクの相互作用:全身獲得抵抗性におけるウイルス防御メカニズムの解明 ○北海道大学大学院農学研究院講師 中原健二 1. 研究の目的と背景 植物は生育環境が悪化したり病原体の攻撃(環境ストレス)にさらされても, それらを逃れるために移動することはできない. その代わり, 以前に経験した環境ストレスに対してより強い耐性・抵抗性を示すプライミングと呼ばれる環境適応機能を身につけて対抗している. 病原体感染により誘導されるプライミングは, 全身獲得抵抗性と呼ばれ, 全身にサリチル酸が蓄積して広範囲の病原体の二次感染を阻害する. しかしながら全身獲得抵抗性が誘導された植物で, どのように病原体, 特にウイルスの感染•増殖が阻害されて抵抗性が増強するのかよく分かっていなかった. 我々は, 全身獲得抵抗性にタバコのカルモジュリン様タンパク質の一つrgs-CaM が関わることを見出した. カルモジュリンやカルモジュリン様タンパク質は真核生物で広く保存され, 放線菌でも見つかっている. 植物で比較的に大きなタンパク質ファミリーを形成し(シロイヌナズナで57, イネで31), カルシウムイオンと結合するEFハンドドモチーフを共通に持ち, “内生”タンパク質に結合してその機能•活性を修飾することでカルシウムシグナルを仲介して, 形態形成やストレス応答などさまざまな働きをしている. しかしながらrgs-CaMは他のカルモジュリン様タンパク質と同様の構造をしているが, 特異的に外生タンパク質であるウイルスが感染細胞で発現するRNAサイレンシング抑制タンパク質(RSS)に結合して, オートファジーによる分解に導きウイルス防御に働くことを我々は以前の研究で明らかにした(Nakahara et al., 2012). 本研究で, rgs-CaMを介したウイルス防御機構は普段は働かず,全身獲得抵抗性が誘導された植物で, 活性化することを見出した. 全身獲得抵抗性でウイルス抵抗性が増強する仕組みを明らかにすることを目的に解析を進めた. 2. 研究内容 rgs-CaMによるウイルス防御機構が普段は働かず全身獲得抵抗性が誘導されたタバコで活性化するように相変化することは, rgs-CaMの発現をRNAサイレンシングにより抑制したrgs-CaMノックダウン形質転換タバコを用いた接種試験で見出された. rgs-CaMノックダウンタバコと野生タバコに, キュウリモザイクウイルス(CMV)を接種したところ, 全身獲得抵抗性を誘導していない場合は, CMVの感染増殖や全身移行, それに伴う病徴発現に両タバコで違いはなかったが, 全身獲得抵抗性誘導後には, 違いが見られた(図1). 全身獲得抵抗性は, 図1全身獲得抵抗性誘導植物におけるウイルス抵抗性増強にrgs-CaMが必要 病原体の感染だけではなく, サリチル酸やその類似物質(BTH)を外から与えてやることでも誘導することができる. 両タバコの葉にBTH処理して全身獲得抵抗性を誘導後にCMVを接種した場合には, 野生タバコでは, 接種後1ヶ月経っても, ウイルスは検出されず予想通りウイルス抵抗性は増強したが, rgs-CaMノックダウンタバコでは, 両タバコで同程度にウイルスが蓄積してウイルス抵抗性は増強せず,全身獲得抵抗性誘導によるウイルス抵抗性増強にrgs-CaMが必要であることが示唆された. 上記の結果から, 以前の研究で明らかにしたrgs-CaMを介したウイルス防御機能, すなわちウイルスRSSのオートファジーによる分解が全身獲得抵抗性の誘導で活性化するのではないかと考えた. そこで, CMVのRSSである2bを恒常的に発現する形質転換タバコBY2細胞にBTH処理したところ抗2b抗体を用いた免疫染色により2bが検出されなくなり, BTHとともにオートファジーの阻害剤を同時に処理した場合には, 2bはBTH)rgs-CaM)(30CMV)2bCBBCMV RNArRNABTH−16−発表番号 8〔中間発表〕

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