2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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SK-BR-3を白金ナノクラスターの濃度が1~100 nMになるように調整した培地で48時間培養し、自動セルカウンターを使用して細胞生存率(毒性)を評価した。 合成した白金ナノクラスターは発光波長:600~650 nm、量子収率:1.0%程度であった。(図1)また、少ないながらも近赤外領域に蛍光特性(発光波長:700~750 nm)を持つ白金ナノクラスターの合成にも成功した。さらに、細胞毒性が低いことを確認しただけでなく、原子レベルでの空間分解能を持つ走査透過型電子顕微鏡観察によって、その粒径が1.0~1.5 nmであることが明らかとなり、その分子構造についても観察された。白金ナノクラスターの原子レベルでの電子顕微鏡観察に関する研究は極めて少なく本研究で初めて得られた知見である。 ② 白金ナノクラスターを用いた生体分子修飾法の構築 PAMAM Dendrimerは非常にかさ高い分子であるため生体分子の動的挙動を妨げることが懸念される。そこで、白金元素がアミノ基に対して高い親和性を持っていることを利用して、アミノ基を有する低分子を使用してリガンド交換を行いPAMAM Dendrimer内から白金ナノクラスターを取り出した。続いて、これらアミノ化合物のカルボキシル基と乳癌細胞(SK-BR-3)に特異的に結合するHerceptin (HER2)抗体のアミノ基との間でカップリング剤(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methyl mor- pholinium Chloride n-Hydrate(DMT-MM))を用いて反応を行い、白金ナノクラスター蛍光プローブを調製した。 DMT-MMを用いて直接HER2抗体と白金ナノクラスターを反応させたところ、凝集体を形成してしまい、生理活性を維持した分子プローブの調整を行うことができなかった。そこで、抗体の活性を維持した白金ナノクラスター分子プローブを調整するために、アダプタータンパク質としてProteinAを使用した。リガンド交換後、DMT-MMを用いて白金ナノクラスターとProteinAをカップリングさせ、電気泳動によって白金ナノクラスターとProteinAとの結合について評価した。泳動後、得られたバンドについて蛍光観察(650 nm)とCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色で観察したところ、白金ナノクラスター由来の蛍光バンドとタンパク質(ProteinA)のバンドが重なっていたため、ProteinAは白金ナノクラスターで標識できていることが確認された。次に、HER2抗体とProteinA-白金ナノクラスターと反応させ、分子プローブを調整したところ、多少の凝集体が形成されたが、HER2抗体で修飾された分子プローブを調整することができた。 ③ 白金ナノクラスターを利用した生細胞観察及びin vivo イメージング 白金ナノクラスター蛍光プローブを乳癌細胞(SK-BR-3)へ投与し、蛍光観察を実施した。その結果、細胞から少ないながらも蛍光が観察された。(図2)次に、合成した白金ナノクラスターを体毛を持たないヘアレスマウスの皮下に投与しin vivoイメージングを行った。その結果、マウスの皮下3 mmから600~700 nmの蛍光が観察され、生体分子プローブとしての有用性について実証した。 図2 白金ナノクラスターで蛍光染色したSK-BR-3細胞の明視野像(左)と蛍光像(右) 3. 今後の展開(計画等があれば) 抗体の生理活性を維持したバイオプローブの調整条件について最適化するだけでなく、生体内からでもより高感度で観察できるよう発光効率について改善するため白金ナノクラスターの表面修飾について検討していく。次に、乳癌のモデルマウスに対してこのバイオナノプローブを投与し、in vivoイメージングだけでなく、癌組織について組織切片を作製し、透過型電子顕微鏡観察を実施することでHER2受容体の分布を分子レベルで評価することによって、本分子プローブの癌細胞や癌細胞固有のタンパク質に対する特異性について実証する。 4. 参考文献 1) S. Tanaka et. al., Angew. Chem. Int. Ed. 50 (2011) 431 2) S. Tanaka et. al., Opt. Mat. Express 3 (2013) 157 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒737-8506 広島県呉市阿賀南2-2-11 TEL/FAX:(0823)73-8433 E-mail:s-tanaka@kure-nct.ac.jp −13−

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