2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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研究課題(和文): 絶滅危惧鳥類種シマフクロウの生息地を市民の目で 見守るための情報公開手法の構築 北海学園大学工学部生命工学科 教授 早矢仕 有子 1. 研究の目的と背景 絶滅危惧鳥類種シマフクロウにおいては、人による生息地への立入りが繁殖や採餌活動を妨害する恐れがあるため、国は30余年に渡る保護増殖事業で一貫して生息地情報を秘匿し続けてきた。しかし、インターネットの急速な普及に伴い生息地情報の流出が拡大し、バードウオッチャーやアマチュアの写真家が一部の生息地に集中して押し寄せ、巣や採餌場所への過度な接近により、シマフクロウの繁殖や採餌への悪影響が強く懸念される事態が生じている。とくに給餌や巣箱設置など重点的に保護施策を投じてきた場所ほど、シマフクロウが集中利用する場所が発生することで生息が知られやすく、旅行会社が一度に十数人の客を連れて生息地に入り込んだり、ネイチャーガイドが繁殖巣の直下まで客を案内して写真撮影をさせるなど、対策に急を要する状況が生まれている。中には、国が窮余の策として給餌場所や巣箱を移設してヒトの目からシマフクロウを隠そうとしている場所すらある。しかし、このような応急処置は根本的解決にはなり得ず、結局移設先で同じ問題が生じる恐れもある。インターネット時代に情報を隠すことは多大なコストを要すると同時に、おそらく不可能であろう。むしろ、絶滅危惧種の保全においては、隠せないことを前提とした新たな保護政策への転換が求められている。 そこで本研究では、隠して守ろうとする発想を逆転させ、絶滅危惧種保全への利益を最大化する情報公開手法を提案することを目的として、実践的研究を行う。具体的には、あらかじめ調査協力依頼に応じた市民に対して、シマフクロウの繁殖巣および給餌場所の画像をインターネットを通じて配信することで、市民の見守りによる監視効果と画像閲覧者への普及啓発効果を検証するとともに、画像配信による情報公開が保全に与え得る負の効果も抽出した上で、絶滅危惧種保全への不利益を最小化し利益を最大化する公開方法の検討を行う。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 既に25年以上シマフクロウの生態調査を継続している調査地において、シマフクロウが繁殖に用いている巣箱と採餌場所の給餌池にネットワークカメラを設置し、携帯電話回線を利用して画像をサーバーに送信し、サーバーからインターネット経由で閲覧者に配信した(図1)。 図1. シマフクロウ生息地からの画像配信 配信画像の閲覧者選定に関しては、鳥類の調査・情報収集・対策の立案等を行っているNPO法人バードリサーチ会員(約2300人)に呼びかけ、協力者を募ることにした。本助成研究を開始した2016年度の繁殖期に配信可能な状態まで準備ができたが、調査地のシマフクロウが産卵・抱卵はしたもののヒナの孵化には失敗したため、協力者募集と画像配信は実施に至らなかった。 今年2017年の繁殖期に向けては、調査地に設置した機材の整備を行うとともに、公益財団法人日本野鳥の会からも協力を得て、会による「シマフクロウ保護の取り組み」に賛同し寄付や活動への参加を行っている会員にも配信画像閲覧への参加を呼びかけた。その結果、バードリサーチ会員117名、日本野鳥の会会員21名から協力者を得ることができた。 調査地のシマフクロウは、産卵・抱卵を経て、4月5日に1羽のヒナが孵化した。そこで、4月8日から閲覧希望者への配信を開始した。配信画像は、調査地の電波 −210−発表番号 100 〔中間発表〕絶滅危惧鳥類種シマフクロウの生息地を市民の目で見守るための情報公開手法の構築

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