2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
22/223

研究課題 医療応用を目指した近赤外蛍光性白金ナノクラスターの開発と1分子in vivo イメージングへの展開 独立行政法人国立高等専門学校機構 呉工業高等専門学校 自然科学系分野 准教授 田中 慎一 1. 研究の目的と背景 癌の診断や幹細胞治療の研究を進めるためには、生体内で機能する生体分子の挙動について分子レベルで観察し、評価する必要がある。近年、光ナノ計測技術と蛍光プローブ(蛍光タンパク質、有機蛍光分子、半導体量子ドット(Q-dot)など)の進歩によって、目的とする生体分子を選択的に標識し画像化できるようになった。そのため、生細胞や生体組織内で機能する様々な生体分子のダイナミクスや反応の素過程について高分解能でかつ実時間で評価できるようになり、多くの生命機構について理解されるようになってきた。しかしながら、従来の分子プローブには退色、細胞毒性、分子サイズによる立体障害などの問題から、生体への影響が懸念されるだけでなく、生体からの自己蛍光と生体組織による散乱・吸収によって生体深部での観察が困難であることから、in vivo イメージングや癌診断・幹細胞治療などの医療への応用例は極めて少ない。そこで、生体組織における1分子計測技術や高精細な医療診断技術を確立するためには、これらの問題を全て克服した生体分子プローブが必要不可欠である。 そこで、本研究では化学的に安定で毒性の少ない白金で合成可能な近赤外蛍光性白金ナノクラスターの開発とそれらを利用した生体1分子イメージング技術の構築を目指す。 数個から数十個の原子で構成される蛍光性白金ナノクラスターは細胞無毒でサイズが電子のFermi波長(~0.5 nm)以下であるため、電子軌道が量子化され分子サイズ(構成原子数)に依存した蛍光特性(量子サイズ効果)を示す。1)、2)そのため、合成条件を最適化することによって近赤外領域に蛍光特性を持つ白金ナノクラスターを実現できることを見出した。加えて、従来の蛍光プローブに比べて高輝度でかつ光退色しないので、癌の浸潤や転移など長期間経過観察を必要とする診断・観察用の生体分子プローブとして最適である。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) ① 細胞無毒な近赤外蛍光性白金ナノクラスターの開発及びその光学特性評価 生体適合性の高い近赤外領域に蛍光特性を有する白金ナノクラスターの合成とその光学特性評価について実施した。近赤外蛍光性白金ナノクラスターの合成は、還元性アミン系化合物であるPAMAM Dendrimerを鋳型分子として用いて行った。長波長側に蛍光特性を有する金属ナノクラスターを合成するために、まず鋳型分子であるPAMAM Dendrimerと金属(白金)イオンを低温化で反応させ、PAMAM Dendrimer内に金属(白金)イオンを取り込ませた。次に、還元剤を白金イオンに対して100倍過剰に加え70~90℃で2週間反応させることでPAMAM Dendrimer内に白金ナノクラスターを生成させた。白金ナノクラスターの合成後、超遠心分離機及び近赤外蛍光検出器を備えた高速液体クロマトグラフを使用して不純物を取り除き白金ナノクラスターの単離・精製を行った。次に、原子レベルでの空間分解能を持つ走査透過型電子顕微鏡を用いて、白金ナノクラスターの結晶構造について観察するだけでなく、乳癌細胞である 図1 合成した蛍光性白金ナノクラスターの励起・蛍光マトリックス −12−発表番号 6〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る