2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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れた(Henmi et al., 2017b)。 巣穴共生性ではないベントスやハゼ類にとっても、巣穴が一時的な隠れ家として機能することについて、干潟の普通種アベハゼを用いて調査を行った。野外観察と実験観察を行い、れきや貝殻などの構造物の少ない砂泥干潟では甲殻類の巣穴を隠れ家として、一時的に利用することが明らかになった。 干潟への幼生のインプットに関して、年間を通して須崎湾の湾奥、湾口、湾外での定量採集を行い、その資料を解析中である。とくに、アナジャコ類の巣穴を利用するヒモハゼについては、湾奥のみで仔稚魚が採集され、湾口や湾外への分布は認められなかった。このことは、干潟域、内湾域の生物のいくつかは、湾内で生活史が完結しており、津波によるインパクトがおきると回復が遅いことが予想される。 3. 今後の展開 今後の生物群集の改変を解析するためのベースラインとなる生物調査を干潟域と浅海域で継続する。生物群集の基礎調査に加え、砂泥底における巣穴を介した住み込み共生の関係について、実証的な実験も含めて調査を行う。例えば、テッポウエビとその巣穴を利用するツマグロスジハゼは、ニシキテッポウエビとダテハゼのような典型的な絶対的相利共生関係ではなく、条件的共生であることが知られている。絶対共生ではないテッポウエビーハゼ間の共生関係において、どのような利害関係や関係の緊密性があるのかを、野外観察と実験から明らかにする予定である。また、アナジャコ類やゴカイ類、ユムシ類の巣穴を利用する生物について、引き続き、巣穴利用の実態調査や特異性の調査を行う。近年明らかになった、ユムシの体表および肛門内を利用するカイアシ類のように(Ijichi et al., 2017)、宿主の巣穴だけではなく、体表や体内などの利用場所に着目した調査も必要である。 また、近年、土佐湾において分布が確認されたサヌキメボソシャコなど(岡田ほか,2016)、干潟域における未解明の巣穴構造についても、樹脂を利用した巣穴鋳型採集から、その空間構造と分布を明らかにし、巣穴共生者についても明らかにする。さらに、堆積物底の住み込み共生の宿主として最も重要なアナジャコ類について、その寄生者であるエビヤドリムシやマゴコロガイ、フクロムシ(Lützen et al., 2016)による個体群への影響について調査を行う。 調整池への海水導入による干潟環境復元について、実験を行う予定であるが、高知県との調整が難航している。2018年度に部分的調査を行うことができるように、県の担当者へ粘り強い交渉を行う予定である。交渉がうまく行かない場合の対応策としては、浦ノ内湾各地の調整池において、海水の流入量とベントス群集の調査を行い、海水の流入量が多い調整池で多様性の高い生物群集が観察されることを示すことを検討している。 4. 参考文献 Henmi, Y. Eguchi, K., Inui, R., Nakajima, J., Onikura, N. and Itani G. (2017a) Field survey and resin casting of Gymnogobius macrognathos spawning nests in the Tatara River, Fukuoka Prefecture, Japan. Ichthyological Research, in press. Henmi, Y., Okada, Y. and Itani, G.(2017b)Field and laboratory quantification of alternative use of host burrows by the varunid crab Sestrostoma toriumii (Takeda, 1974) (Brachyura: Varunidae).Journal of Crustacean Biology,37: 235-242. Ijichi, M., Itani, G. and Ueda, H. (2017) Life cycle and precopulatory mate guarding of Goidelia japonica (Copepoda: Poecilostomatoida: Echiurophilidae) associated with the echiuran Urechis unicinctus. Plankton and Benthos Research, in press. Lützen, J., Itani, G., Jespersen, Å, Hong, J-H. and Glenner, H. (2016) On a new species of parasitic barnacle (Crustacea: Rhizocephala), Sacculina shiinoi sp. nov., parasitizing Japanese mud shrimps Upogebia spp. (Decapoda: Thalassinidea: Upogebiidae), including a description of a novel morphological structure in the Rhizocephala. Zoological Science, 33: 204-212. 三浦誠矢・森小菊・福田達哉・伊谷行・中井静子・三浦収(2017)四国沿岸の干潟における底生生物の多様性.黒潮圏科学,10: 148-154. 岡田祐也・邉見由美・美濃厚志・伊谷行・斉藤知己・町田吉彦(2016):土佐湾におけるサヌキメボソシャコの記録.南紀生物,58: 206-207. 5. 連絡先 〒780−8520高知市曙町2−5−1高知大学教育学部 E-mail: itani@kochi-u.ac.jp −209−

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