2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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森林生態系におけるコウモリ類の環境指標生物化に関する研究東京大学大学院農学生命科学研究科北海道演習林助教福井大1.研究の目的と背景近年の我が国の森林政策は、野生生物多様性保全の方針を明確化するなど、森林生態系保全に配慮した森林施業が一層重視される方向にある。森林利用の影響を定量的に評価し、経済活動と森林生態系保全の両立を図ることは、持続可能な社会の構築に不可欠であり、そのために指標生物を用いるアプローチが有効であると考えられている。しかし、これまでに指標生物として提案されてきたのは、鳥類や水生昆虫など一部の分類群に限られており、多面的評価が難しい。その中で最近、コウモリ類が指標生物として極めて有効である可能性が提唱されている(Jonesetal.2009)。指標生物に適した分類群は、生物多様性や物質循環に影響を及ぼす環境ストレス因子に敏感であり、生息場所の生物相を代表して、測定可能な応答を示すものである。温帯地域に生息するコウモリ類の多くは昆虫食であり、栄養段階の頂点に位置するため、その個体数の変化は餌となる昆虫類の変化を反映している。また、繁殖速度が遅く、環境変化に対する感受性が高い。そして、森林から水域まで様々な生息場所を広く利用するため、指標生物としての汎用性は高いと期待される。つまり、コウモリ類の個体数や活動性の変化は、森林利用の変化と密接に関係していると考えられる。本研究の最終的な目標は、複数の森林施業方法とコウモリ類の利用頻度や多様性との関連性を明らかにすることにより、各種森林施業方法をコウモリ類の視点から評価し、コウモリ類の保全を考慮した森林施業方法や森林環境のあり方を提言すると同時に、コウモリ類を用いた汎用性のある環境評価の枠組みを構築することである。2.研究内容2-1.コウモリ類の音声ライブラリーの構築音声モニタリングの際に必要となる参照音声を収集するため、東京大学北海道演習林内および周辺でコウモリ類をかすみ網もしくはハープトラップにより捕獲した。種同定の後、放逐の際の飛翔時音声をタイムエキスパンション式バットディテクター(超音波マイク)に接続したリニアPCMレコーダーによって録音した。これまでの調査の結果、2科10種131個体のコウモリを捕獲し、飛翔時音声を録音した。2-2.コウモリ類の音声による種判別法の構築本研究では、1-1で収集した音声を音声解析ソフトウェア(SonoBatもしくはKaleidoscopePro)によって画像化し、音圧や周波数などの各種パラメータを計測する。その計測データをもとに、複数の機械学習手法(回帰木・ニューラルネットワーク・サポートベクターマシーン)を比較して最適な識別アルゴリズムを構築し、音声による種判別方法を開発する予定である。現時点では、解析に耐えうる数の音声がまだ収集され Scientific name Call type (kHz) Prediction Recall (S.D.) (%) S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 S9 S10 S11 N Genus Species Reference S1 : (Pipistellus abramus) FM/QCF, FM (45) 533 9 5 6 45 0 1 0 0 0 1 600 88.8 (0.5) 88.8 (0.5) S2 : (Miniopterus fuliginosus) FM/QCF, FM (50) 9 224 3 2 4 0 0 0 0 0 0 242 92.5 (0.4) 92.5 (0.4) S3 : (Myotis ikonnikovi) FM (50) 3 2 283 15 37 1 1 0 0 0 0 342 99.5 (0.03) 82.8 (0.5) S4 : (Myotis frater) FM (50) 8 2 13 182 19 0 0 0 0 0 0 224 81.3 (0.4) S5 : (Myotis macrodactylus) FM (50) 5 2 15 10 4003 0 0 0 0 0 1 4036 99.2 (0.03) S6 : (Murina hilgendorfi) FM (40~65) 0 0 6 2 9 39 13 0 0 0 0 69 91.0 (0.2) 56.7 (2.1) S7 : (Murina ussuriensis) FM (50~85) 0 1 2 5 11 8 304 0 0 0 0 331 91.8 (0.3) S8 : (Rhinolophus ferrumequinum) FM/CF/FM (63~70) 0 0 0 0 0 0 0 127 1 0 0 128 100 (0.0) 99.2 (0.3) S9 : (Rhinolophus cornutus) FM/CF/FM (103~111) 0 0 0 0 0 0 0 1 28 0 0 29 96.7 (1.1) S10 : (Vespertilio sinensis) FM/QCF, QCF (25) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 32 7 39 82.5 (1.7) 82.5 (1.7) S11 : (Plecotus sacrimontis) FM (35) 2 1 1 3 3 0 0 0 0 0 298 308 96.8 (0.4) 96.8 (0.4) 表1 各種コウモリの機械学習による音声識別結果.縦軸は実際の種名、横軸は識別された種名を表す. −206−発表番号 98 〔中間発表〕

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