2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
214/223

バイオロギング-リアルタイムグレイジング解析を用いた ヤギによる砂漠化プロセスの解明 筑波大学生命環境系助教 川田清和 1. 研究の目的と背景 北東アジアのステップ地帯における草原の砂漠化は,家畜頭数の増加が主要な原因であると指摘されている.近年モンゴルで増加している主な家畜はヤギとヒツジで、このうちヤギは草原の植物を根から食べてしまうため、ヒツジと比べて砂漠化を引き起こしやすいと言われている。しかしながらこの現象に関する記述は、現地住民の経験や口伝による証言に基づいたものがほとんどである。科学的な根拠を示せない理由は、現象として観察できたとしても、過放牧の評価に必要な、いつ何をどのくらい採食したのかという要素が記録できないためである。そのため過放牧は砂漠化の主要因と言われながらもその内容はあいまいな部分が多く存在する。そこで過放牧の発生プロセスを追跡できる方法を考案し、新たな放牧圧の評価方法を着想するに至った。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 調査地はモンゴルの首都ウランバートルから西に約95 kmにあるフスタイ国立公園周辺である.フスタイ国立公園は自然保護区であり,野生動物の保護を目的とした土地利用の管理が行われている.フスタイ国立公園の中央部はコアゾーンとして管理しており,牧民による放牧利用は行われていない.その一方でコアゾーン周辺のバッファーゾーンでは,特定の牧民だけに利用制限をしたうえで放牧が行われている.本研究はフスタイ国立公園南側のバッファーゾーン内で行った.調査地周辺の年降水量は229.4 mm,年平均気温は0.7°C(1992年-2014年)で,ステップ気候帯に属している. モンゴルの草原における放牧研究は2016年6月19日から7月4日に行った.バッファーゾーン内に調査サイトを5つ設置し,各サイトで2頭のヤギ(メス・4歳)を用いて放牧試験を行った.2 mのワイヤーで繋いだ放牧範囲(12.56 m2)と3 mのワイヤーで繋いだ放牧範囲(28.26 m2)を調査プロットとした.それぞれの放牧密度は796頭 / (ha・day) と354頭 / (ha・day) である.ヤギに首輪を取り付け,ヤギ1頭ずつをそれぞれの調査プロットに配置した(図1). 図1モンゴルの草原における放牧試験の様子 各調査プロットに1 × 1 mの植生調査枠を2つ設置し,放牧試験前(0 h),放牧後約6時間(6 h),放牧後約12時間(12 h)の3回調査を行った.調査枠内に出現したすべての種をリストアップし,それぞれの種について草丈および被度を測定した.種名はGrubov (2001)にしたがい,被度の測定基準にはPenfound and Howard (1940)を用いた. 各調査サイトでバイオマス測定用に1 × 1 mの調査枠を設置し,それぞれの種について最大草丈および被度を測定した後,種ごとに地上部を刈り取った.刈り取った植物体は80°C設定の乾燥機で24時間乾燥させた後に現存量を測定した.バイオマス測定用の調査枠で測定した最大草丈および被度から求めたv − value (Nakamura et al. 2000)と実測した現存量について単回帰分析を行い,回帰式から各サイトの推定地上部現存量(E-AGB)を算出した.放牧後の時間経過に伴うE-AGBの変化を多重比較で検証した(図2).2 m区におけるE-AGBは,放牧6 hで66.9%減少し,放牧12 hで69.5%減少した.3 m区におけるE-AGBは,放牧6 hで58.6%減少し,放牧12 hで69.4%減少した.放牧12 hのE-AGB の変化から,放牧密度に関わらず放牧前の約3割が残されていた.このことから,放牧密度を354頭 / (ha・day)より高めても,放牧の影響は変わらないと考えられた. −204−発表番号 97 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#214

このブックを見る