2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
213/223

図1. イトウ2歳魚の飼育水槽から検出された環境DNA量と尾数の相関。縦軸は抽出DNA 2µL当たりのイトウ特異的DNAコピー数、横軸は収容飼育尾数。(Mizumoto et al. in prep) 図2. イトウ飼育水槽から検出された環境DNA量と飼育魚体サイズの相関。飼育魚平均尾叉長とそれぞれ1匹当たりのイトウDNAコピー数を示す。(Mizumoto et al. in prep) 写真1. 道北・猿払川水系での野外サンプリングの様子。 3. 今後の展開 環境DNA技術の希少生物分布に対する有効性は、当然ながらその検出感度に強く依存している。前年度の解析の結果、環境DNAを用いたイトウ生物量の推定は飼育環境下ではかなりの精度で実現可能なことが分かったが、同時に多くの課題も残された。 例えば同じ大きさ・尾数の魚でも、生息している場所の水量や流量によって検出される環境DNA濃度は異なる。また、先行論文においては魚との距離や水温、DNA増幅阻害物質の有無などといった様々な環境要因が定量性に影響することが示唆されている。野外での希少種検出における最大のハードルは、これら様々な環境要因の影響を最小限に抑えて確実に周辺生息動物の環境DNAを感知する、高い感度の検出系を確立することにあるといっても過言ではない。 そのため、これまでイトウ検出に用いてきた環境DNAの検出系をさらに改良し、より高感度により安定的に環境DNAが検出できる系の確立を目指す。 同時に、単にイトウという種の検出にとどまらず、イトウと共存する種、出来ない種といった種間相互作用やイトウの種内変異に関する解析に挑戦する。これらの挑戦には高いハードルが予想されるが、既に前年度から様々な試行を重ねており、上記高感度環境DNA検出系と共に、その実現可能性は高い。 4. 参考文献 1) Fukushima M., Shimazaki H., Rand P.S., Kaeriyama M. (2011) Reconstructing Sakhalin taimen Parahucho perryi historical distribution and identifying causes for local extinctions. Transactions of the American Fisheries Society 140:1-13. 2) Miya M., Sato Y., Fukunaga T., Sado T., Poulsen J.Y., Sato K., Minamoto T., Yamamoto S., Yamanaka H., Araki H., Kondoh M., Iwasaki W. (2015) MiFish, a set of universal PCR primers for metabarcoding environmental DNA from fishes: detection of more than 230 subtropical marine species. Roy. Soc. Open Sci. 2: 150088. 5. 連絡先 札幌市北区北9条西9丁目 北海道大学農学部・動物生態学研究室・教授 荒木仁志 (arakih@res.agr.hokudai.ac.jp) −203−

元のページ  ../index.html#213

このブックを見る