2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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れた。下水の直接膜ろ過において、担体の投入は必ずしも必要とはならないことが示された。担体を投入して長期運転を行ったRun 2-3では、タンク2において槽内懸濁液の粘性が著しく高まる傾向が観察された。このような傾向は、同時に実施したRun 2-4では観察されなかった。Run 2-3で用いられた担体は、槽内懸濁液のろ過性を低下させる何らかの作用があったことが示唆される。 Run 2-4で設定した膜洗浄条件の良好な膜ファウリング抑制効果を検証するための実験を実施した。この実験では融雪に伴い下水水温がかなり低くなり(約7℃)、膜間差圧の上昇速度が速くなった。Run 2-4で設定していた膜透過水フラックスは、下水の直接膜ろ過を低水温時に実施するには高すぎることが示唆された。膜透過水フラックスをタンク1で0.16 m/d、タンク2で0.10 m/dに設定して実施したRun3ではTMPの上昇がほとんど起こらず、下水の直接膜ろ過を安定して長期間継続することが可能であった(図3)。Run3ではCEB強度削減についても合わせて検討した。367時間経過時より、CEBに用いるクエン酸濃度を1%から0.12%に減少させた。CEBの実施頻度は6時間に一度で変更していない。536時間経過時より、クエン酸濃度を1%に戻す一方で、CEBの実施頻度を48時間に一度とした。図3に示すとおり、CEB強度の減少にも関わらず、Run 3におけるTMPの上昇は抑制された。薬品濃度の低下およびCEB実施頻度の低減のいずれもTMP上昇を引き起こさなかった。下水の直接膜ろ過におけるCEBの実施方法には改善の余地が多く残されていることを示す結果である。Run 3におけるTMPの上昇は僅かであり、約一ヶ月間にわたり下水の直接膜ろ過を安定して行うことが可能であった。下水の直接膜ろ過には最適化の余地が未だに多く残されており、さらに効率的な運転の実施が可能となるはずである。Run 3においても有機物の濃縮は想定通りに行われ、体積基準で50倍の連続濃縮が可能であった。COD基準の物質収支を検討したところ、Run 3では約75%の下水中有機物を濃縮有機物として回収できていた。本実験ではMF膜を用いた実験を行ったが、より細孔径の小さなUF膜を用いることで、容易に回収有機物量を増加させられることが見込まれる。 3. 今後の展開 下水の直接膜ろ過により、下水中有機物の75%をエネルギー回収プロセスで処理できるようになる。現在の下水処理では下水1m3あたりに0.3−0.6kWhの電力を消費しているが、本研究で提案した下水濃縮プロセスは0.3kWh/m3未満の消費電力で駆動できることが確実視される。今後は大型の連続処理実験を実施して、本方法のエネルギー消費量について確度の高いデータを取れればと考えている。 4. 参考文献 Lateef et al. 2013. Direct membrane filtration of municipal wastewater with chemically enhanced backwash for recovery of organic matter. Bioresour. Technol. 150, 149–155. Kurita et al. 2014. The influence of granular materials on the operation and membrane fouling characteristics of submerged MBRs. J. Memb. Sci. 469, 292–299. 5. 連絡先 電話:011-706-6271 E-mail: kkatsu@eng.hokudai.ac.jp 図2物理洗浄とCEBを組み合わせた下水の直接膜ろ過における膜間差圧経時変化(左:タンク1、右:タンク2) 図3膜透過水フラックス再設定後の実験における膜間差圧経時変化 −199−

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