2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
208/223

下水処理場をエネルギー消費施設から供給拠点へと転換させる 下水の直接膜ろ過法の確立に関する研究 北海道大学大学院工学研究院准教授 木村克輝 1. 研究の目的と背景 都市下水に含まれる有機物は新たなエネルギー源として活用すべきであるが、現在行われている下水処理では下水中の有機物を分解するために大量のエネルギーが注入されている。都市下水中の有機物濃度は低く、メタン発酵などのエネルギー回収プロセスを直接適用することは難しい。下水を直接MF膜ろ過し、有機物を濃縮することで下水中有機物の約75%を回収できることが報告されているが(Lateefら、2013)、深刻な膜ファウリングの発生が問題となる。また、下水の直接膜ろ過においては回収可能有機物量を維持するために曝気以外の膜洗浄方法を用いることが望ましい。本研究では薬品添加逆洗(CEB)、膜モジュール自体の振動等の様々な膜洗浄方法を検討した。下水の直接膜ろ過において主要な膜ファウリングとなる可逆的な膜ファウリングを効率的に抑制できる膜洗浄方法の開発を目的として実験を行った。 2. 研究内容 実験は下水処理場に設置したベンチスケール装置を用いて行った。図1に実験装置フローを示す。本研究に使用した膜は公称孔径0.1 μm、PVDF製の中空糸MF膜(旭化成ケミカルズ製)である。1段目タンク(タンク1)で膜ろ過により濃縮された下水を2段目タンク(タンク2)において更に濃縮し、所定の濃縮倍率(流入水体積/回収物体積により定義)を得た。洗浄方法の開発に関する実験ではタンク1とタンク2における濃縮倍率をそれぞれ2.5、20に設定し、全体での濃縮倍率が50になるようにした。 予備実験に基づき、タンク1とタンク2における膜透過水フラックスをそれぞれ0.26 m/d、0.17 m/dに設定した。膜ろ過は間欠で実施(12分間ろ過・3分間休止)した。我々がこれまでに行ってきた研究(Lateefら、2013)ではタンク内撹拌と膜面洗浄のためにタンク内曝気を実施したが、エネルギー消費量及び回収可能有機物量維持の観点から曝気は望ましくない。本研究では撹拌機によるクロスフロー流の発生、物理的洗浄効果を増進させる粒状担体の投入(Kuritaら、2014)、膜モジュール自体の縦振動を実施し、それぞれの洗浄効果を検討した。 予備実験の結果(厚朴ら、2015)に基づき、洗浄方法の開発に関する実験では全てのRunでクエン酸(1%)をCEBに用い、フラックス4.0 m/dで6時間に一度30秒間のCEBを実施した。 3系列のろ過ユニットを並列させて運転し、各物理洗浄の効果を検討した短期間実験(Run1)において、膜振動の有効性を確認した。Run2では、CEBと各物理洗浄を組み合わせることで、下水直接膜ろ過の長期間継続を試みた。図2にRun 2におけるTMPの上昇を示す。Run 2-1では攪拌(クロスフロー流)の効果、Run 2-2では膜振動の効果を検討した。CEBの実施にも関わらず、これらの実験におけるタンク1でのTMP上昇速度は極めて速くなった。これらの物理洗浄を単独で実施しても、下水直接膜ろ過における膜ファウリングの抑制効果は限定的であることが示された。これらの実験結果に基づき、Run 2-3では担体の投入と膜分離槽内攪拌を同時に実施した。Run 2-3では下水の直接膜ろ過を500時間以上継続することが可能であった。有機物の濃縮は想定通りに行われ、濃縮有機物としてタンク2から回収する有機物の濃度は常に8,000 mg/Lを超えていた。これは嫌気性処理の適用が十分に可能なレベルである。しかしながら、Run 2-3でタンク2におけるTMPの上昇速度が速くなった。Run 2-4では膜分離槽内攪拌(クロスフロー流の創出)と膜振動の組み合わせを検討した。担体を用いていないRun 2-4において、Run 2-3よりも膜ファウリングの発生は抑制さ 図1実験装置フロー −198−発表番号 94 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#208

このブックを見る