2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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気象災害の被災不安感の各項目について、それぞれの手法別に、情報提供前と情報提供後との回答の変化についてクラスカル・ウォルス検定を行った。ここで、ノンパラメトリック検定を行ったのは、各項目の回答分布に正規性が確認されなかったためである。情報提供前後で統計的に有意(有意水準5%)な差異がみられた項目の手法別・時期別の回答の総数、平均値及び検定結果(***:有意水準1%、**:有意水準5%)を表1に示す。 表1 手法別の情報提供前後の回答変化 項目N平均N平均N平均N平均猛暑の続く期間が長くなっている1303.351283.421293.291293.45***熱中症など健康への被害が増えている1253.191243.00***1193.131252.99近くで浸水や洪水が起こるかもしれない1302.551242.68**1312.471282.65**近くでがけ崩れが起こるかもしれない1292.261242.341302.271282.43***pp(4非常にそう思う~1全くそう思わない)タイプAタイプB介入前介入後介入前介入後 この結果、タイプAでは、「熱中症など暑さによる健康への被害が増えている」と、「近くで浸水や洪水が起こるかもしれない」の2つ項目で、前者は情報提供前に比べて提供後は肯定的意見が減少する傾向にあり、後者は情報提供前に比べて提供後に不安感が増加する傾向であった。これに対して、タイプBでは、「猛暑の期間が長くなっている」と、「近くで浸水や洪水が起こるかもしれない」、「近くでがけ崩れが起こるかもしれない」という3つの項目で、情報提供前に比べて提供後に気候の変化に対する肯定的意見が増加し、不安感が増加する傾向がみられた。 次に、情報提供手法がこれらの項目の変化に与えた影響をより詳細に分析するために、情報提供手法に対する各評価項目と情報提供前後において変化がみられた項目との関連について、カイ二乗検定による独立性の検定を行った。この結果、統計的に有意(有意水準5%)な関連がみられたのは、タイプAでは、「内容に関して恐ろしさを感じた」に否定的な人(「あまりそう思わない」と「全くそう思わない」の回答者)の方が、「熱中症など暑さによる健康への被害が増えている」に対する肯定的意見が減少する傾向があることが明らかになった。一方、タイプBでは、「構成は分かりやすかった」及び「デザインは親しみやすかった」の2つの項目が、「近くでがけ崩れがあるかもしれない」との間で有意な関連がみられた。いずれも、「構成は分かりやすい」あるいは「デザインは親しみやすかった」と肯定的な人(「非常にそう思う」と「ややそう思う」の回答者)方が、「近くでがけ崩れがあるかもしれない」に対する肯定的意見が増加する傾向にあることが明らかになった。 以上のことから、科学的情報を図解したタイプBでよりリスク認識を高め、気象災害による被災可能性を自分ごととして認識する傾向が強まることが示された。 (5)情報提供による変化と個人属性との関係 情報提供によるこれらの項目への変化と個人属性との関連について分析を行った。分析は、性別、年齢層(20・30代、40・50代、60代の3区分)、職業3区分(会社員等、自営業等、学生・主婦・無職の3区分)、居住形態(戸建て、集合住宅の2区分)、近隣環境(湖、急な斜面、1級河川、小河川、用水路のそれぞれについて近隣にある、ないの2区分)について、それぞれの項目の変化との間に関連について、カイ二乗検定による独立性の検定を行った。 この結果、タイプAではこれらの個人属性と統計的に有意(有意水準5%)な関連がみられなかった一方、タイプBでは、「猛暑の期間が長くなっている」と、「近くでがけ崩れが起こるかもしれない」の2つの項目で、個人属性との関連がみられた。このうち、「猛暑の期間が長くなっている」との認識に対する肯定的意見が増加した人は、居住形態で「戸建て」よりも「集合住宅」で多く、近隣環境で「近くに小河川がある」よりも「近くに小河川がない」で多くなっている。また、「近くでがけ崩れが起こるかもしれない」との不安感が増加している人は、職業において「自営業等」が多く、近隣環境では「近くに急な斜面がある」人の方が多くなっている。 以上のことから、情報提供による効果は居住地の近隣環境(小河川、急斜面)や居住形態、地域との関わりによって影響を受けることが明らかになった。 3. 今後の展開(計画等があれば) 気候変動に関する科学的情報をより直感的に理解できるかたちで図解する手法は、市民の認識を変化させ、将来の影響を「自分ごと」として捉えることに有効であることが示唆された。今後は、こうした認識の変化が行動を促す効果についても研究を行う予定である。 4. 参考文献 1)馬場・杉本ら(2011)市民の気候変動への態度形成の規定因,環境システム研究論文集,39,Ⅱ_405-Ⅱ_413 2)S.J.Carlton,S.K.Jacobson(2013)Climate change and coastal environmental risk perceptions in Florida, Journal of Environmental Management,130,32-39 −197−

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