2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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AR(拡張現実)技術を用いた気象災害リストと気候変動リスクの 重畳的情報提供手法の構築に関する研究 神奈川大学人間科学部 教授 松本 安生 1. 研究の目的と背景 地球温暖化に伴う気温の上昇や降水量の変化など、気候変動による影響が不可避となっていることから、自然や人間社会のあり方を調整し、被害を最小限に抑える適応策の必要性が高まっている。こうした適応策の実施においては、これまでの緩和策以上に一般市民の理解や行動が重要であり、は市民の理解を深め、リスクへの適応に向けた意識を高める普及啓発手法が求められている1)。一方、気候変動のリスク認知においては様々なバイアスがあることが明らかにされている。例えば、アメリカにおけるアンケート調査では「地球温暖化」という言葉に対する感情が、人々の価値観や個人属性などよりも強く人々のリスク認知に影響していることが明らかにされている2)。 こうしたことから、気候変動による科学的な知見をより感情や心情に直接的に働きかける情報、つまりより身近でイメージしやすい情報として見える化し、提供することは、一般市民が限られた認知資源のなかで気候変動リスクをより適切に認識するために重要であると考えられる。そこで,本研究では近年の気候の変化及びそれに伴う気象災害という現状と将来の気候の変動とその影響という予測とを重畳的に情報提供する手法の構築とその効果検証を行うことを目的とする。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) (1)研究の方法 最初に近年の気候変化とその影響並びに将来の気候変動とその影響に対する認識、さらには気象災害に対する被災不安感などを把握するための市民アンケート調査(以後、第1回調査)を実施した。また、市民の認識が比較的高い分野を事例として、近年の気候変化とその影響及び将来の気候変動とその影響に関する科学的な知見を重畳的に情報提供する手法を構築した。さらに、これらの情報提供手法による効果を検証するため、第1回調査と同じ対象者に対して3種類のリーフレットを用いた情報提供と、2 回目の市民アンケート調査(以後、第2 回調査)を実施した。 本研究では、第1 回及び第2 回調査の結果をもとに、情報提供が近年あるいは将来の気候変化とその影響に対する認識を変化させる効果、気象災害に対する被災不安感に与える影響、さらには情報提供手法の違いによる効果の差異について分析を行った。 (2) 市民への情報提供手法の構築 第1回調査の結果から市民のリスク認識が比較的高い、「猛暑」及び「豪雨」を事例として、近年の気候変化とその影響に関する情報に、将来の気候変動とその影響に関する予測に関する最新の科学的な知見を重畳的に情報提供する以下の3種類のリーフレットを作成した。 ・タイプA:通常の行政による情報提供手法を想定してそれぞれの頁に現状と予測との詳細な情報を記載 ・タイプB:よりイメージしやすい情報として必要最低限の情報を図解(インフォグラフィックス)して掲載 ・タイプC:同様な情報をアニメーションを使った動画によりスモートフォンやタブレットを通じて提供 ただし、C 案の動画の視聴はほとんど確認できなかったため、今回の分析からは除外した。 (3) 市民アンケート調査の概要 本研究の調査は神奈川県相模原市(人口712 千人、以下S 市)において実施した。第1 回調査を2015 年1 月~ 2 月に、第2 回調査を同年5 月~ 6 月に行った。第1 回調査は20 ~ 69 歳までの市民2000 人(外国人を除く)を無作為抽出により抽出し、郵送により調査票の依頼と回収を行った。この結果、有効回収数850 人(有効回収率43.1%)を得た。また、第2 回調査は第1回調査と同じ対象者2000 名をその回答状況と個人属性(年齢、性別、スマートフォンの保有状況等)を考慮して3 グループに分け、それぞれのグループにタイプA ~ C のいずれかのリーフレットを同封し、郵送による調査票の依頼と回収を行った。この結果、有効回収数484 人(有効回収率25.0%)を得た。 (4)情報提供による効果の分析 それぞれの情報提供手法による効果とその違いについて明らかにするため、現状の気候の変化とその影響に対する認識、将来の気候の変化とその影響に対する認識、−196−発表番号 93〔中間発表〕

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