2017 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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赤城大沼湖水の平均滞留時間が2.3年と比較的長いためであると考えられた.このように赤城大沼に生息するワカサギの放射性Cs汚染は持続しており,今後とも調査の継続が必要である. 2.2 将来シナリオの作成と評価 2.2.1 将来シナリオ 放射性Csの環境動態の解明実績から以下のような将来シナリオを想定し,各シナリオの現実性,採算性,環境に対するインパクトの有無について検討を行った. A)なりゆきシナリオ:基本的な操作はないもしないで,自然の放射能の減衰と流下量,沈澱量から生態系中での変化がどの程度かを明らかにした. B)浚渫による除去・除染の効果:最も改善に効果のある工法であるが,底泥の処分法や搬出先についての情報を収集し現実的な工事行程や費用を積算した. C)ゼオライト等の添加による封じ込め:具体的な放射性Csを吸着させる資材としてゼオライトを想定し,それの除線効果について検討した.特に,溶存態での存在量が少ないこと,底泥からの再溶出を防止できるかを検討した. D)カリウムや安定Csの添加による希釈効果:農業分野や一部水産で実験されている放射性Csと同じ挙動するカリウムや安定Csを生態系に噴霧した場合に湖沼生態系にどんな影響がでるか,放射性Csが動植物プランクトンへ移行する量が低減するかどうかを明らかにした. C),D)については大型水槽レベルの操作実験を行い,その効果と環境影響を評価した.さらに,C)については,現地隔離水界実験を行い,その効果を詳しく評価した. 2.2.2 現地隔離水界実験によるシナリオ(C)の評価 大型水槽を用いた実験により,ゼオライトの直接散布は,湖水の懸濁などを招き,環境影響が大きいことが判明したため,湖心においてゼオライトを8月中旬から2か月間係留して,除染効果を実証した(図2).その結果,夏季成層期に無酸素層での除染効果が大きく,大粒より中粒の方が効果の大きい事が明らかになった.成層している湖沼底層では底質からの放射性Csの溶出が認められ,溶存態の割合が高いためゼオライトに吸収されているものと推定された.シナリオ(B)に従う実際の底質の除染費用を赤城大沼の面積で試算したところ,20億円程度費用がかかり,更にその底質の保管場所の問題で実現する可能性は低い.比較的費用が少なく,回収が容易な底層におけるゼオライト係留法が環境に優しく費用対効果の高い最も優れた除染方法と考えられた.除去率は表層~中層で約10Bq/kg/日,底層で約16Bq/kg/日となって最終的に2.5ヶ月で1,200Bq/kgゼオライトの除去が可能になると推定された.赤城大沼用水の流水条件では表層とそれほど違いは無く溶存態の多い嫌気的な底層での効果が期待された(図3). 図2.夏季成層期におけるゼオライト係留実験による放射性Csの除去効果 図3.夏季循環期におけるゼオライト係留実験による放射性Csの除去効果 3. 今後の展開 最近,水産資源や農業水源,飲用水源として重要なダム湖に多量の放射性Csが蓄積していることが環境省から発表され,新聞報道(毎日新聞2016年9月26日)ではその危険性や対応の仕方が指摘され,6年経過した今でもダム湖に溜まっていくのかなどその原因究明と問題解決の必要性が騒がれている.一方,閉鎖的な山岳湖沼は,攪乱の少ない,比較的安定した生態系と考えられ,放射性Csの汚染機構の解明と将来予測のために大変適した研究対象と考えられる.今後自然湖沼やダム湖での嫌気的な底質環境において137Cs挙動(間隙水の移動,溶出)が注目される. 4. 連絡先 群馬大学大学院理工学府分子科学部門 〒376-8515 桐生市天神町1-5-1,Tel: 0277-30-1250, Fax: 0277-30-1251,E-mail: tsunoda@gunma-u.ac.jp −193−

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